偽情報か、ファクトか、国が判断していいのか?(写真:squarelogo/Shutterstock)

岸田文雄政権が「誤情報・偽情報」対策を急ピッチで進めています。総務省の検討会はこの7月、対策の方向性を示した取りまとめ案を公表し、法制化に向けたパブリックコメントの募集も始めました。インターネット上の誤情報・偽情報をどう規制するかは世界的な課題ですが、総務省案に対しては「言論の自由に政府が介入する“官製ファクトチェック”になりかねない」との批判も出ています。総務省案とは、具体的にどのような内容なのでしょうか。問題点はどこにあるのでしょうか。やさしく解説します。

フロントラインプレス

ネットに溢れる「フェイク」情報

 ネット空間には、事実とは異なる情報が溢れています。誰もが一度ならず、ウソ情報に騙された経験を持っているでしょう。

 2022年3月に実施された総務省の調査では、偽情報への接触頻度は「週1回以上」という人がおよそ3割に達していました。また、Innovation Nipponが2020年に公表した「日本におけるフェイクニュースの実態と対処策」によると、「誤情報」「偽情報」に接しても気づかない人は75%に達し、そのうち25%はそれらの情報をSNSで拡散していたそうです。

 米国のマサチューセッツ工科大学の研究チームによる2018年の調査では、ツイッター(現・X)の投稿のうちデマ情報の拡散は真実の1.7倍に達し、拡散速度は6倍だったという結果も出ています。

 つまり、偽・誤情報は事実の情報をはるかに上回る拡散力を持っているのです。こうした情報はこれまで一般には「フェイクニュース」と呼ばれてきました。ただ、フェイクニュースという語句は、ウソやデマ、陰謀論、プロパガンダ(宣伝)、ディープフェイクなどさまざまなものを含んだ概念であり、定義はあいまいです。

 さらに事実であるにもかかわらず、米大統領時代のトランプ氏のように自分の気に入らない情報を「フェイクニュース」と断じて排除するケースも大きな問題になりました。

 こうしたことから、近年はフェイクニュースという語句を使わず、ネット上の言論空間を大きく歪める有害情報を3つのカテゴリに分類することが一般的になってきました。