総務省案の問題点

 しかし、総務省案に対しては、専門家の間から「国家による言論への介入を招きかねない」「フェイクニュース禁止法のようなものをつくって当局が情報真偽の裁定者になるのか」「官製ファクトチェックの入口になる」といった厳しい指摘も相次いでいます。どこが問題なのでしょうか。

 総務省案では「誤・偽情報」を拡散させない手段として、コンテンツモデレーション(投稿管理)を採り入れるとしています。その対象は次の3類型です。

①    他人の権利を侵害する偽・誤情報
②    政法規に抵触する違法な偽・誤情報
③    権利侵害性その他の違法性はないが、有害性や社会的影響の重大性が大きい偽・誤情報

 このうち、①と②については、現行法でも規制可能ないわゆる「有害情報」であり、新たな法令を設ける必要はないと言われています。

 問題は③の「違法性はないが、社会的影響の大きい偽・誤情報」です。

 例えば、国側が③に該当すると判断したニュースや意見がデジタル空間に流れた場合、国側はプラットフォーム事業者に削除などを依頼し、事業者はその要請に沿って当該の情報を削除するという仕組みです。しかも、「有害性や社会的影響の重大性が大きい」とは何を意味するのか、誰がどのようなプロセスでそれを判断するのかは明確に示されていません。

 ある立場から見ると事実であっても、別の立場に立つと虚偽だ、といったことは日常的にしばしば起きることです。これまでの言論空間では、そうした対立した情報・見解があった場合でも「言論の自由市場」に任せておけば、やがて言論は妥当な方向に向かうと考えられてきました。