ネット時代にふさわしい法律を整備しないと民主主義が脅かされる危険性がある(Vilius KukanauskasによるPixabayからの画像)

 今回は、2024年都知事選での不法行為が、今後のネット選挙全体に及ぼす悪影響を懸念して、私自身の大学での専門の観点から、別の指摘をしておきたいと思います。

 それは、東京都という役所の「情報危機管理体制」の欠如です。

 具体的には、明らか公職選挙法に違反する、都知事の定例記者会見現場での選挙PR運動を、ご丁寧に字幕までつけて、文字起こしも添付して、都の公式ホームページ上に音声動画リンクできてしまったこと。

 このトンネルぶりに対する、警鐘を鳴らしておきたいと思います。

 この観点は、いまだ郷原信郎弁護士を筆頭に、小池都知事の不法行為による集票と当選に疑問を投げかける法律家の皆さんも指摘されていないポイントです。

 具体的には「放送法」「電波法」に抵触する内容の音声動画が、インターネット上で野放しになっている現実に対して、東京大学で情報倫理を四半世紀扱ってきた、一教授職として過不足なく指摘する必要があると考え、稿を分けました。

 ネット・音声動画でのミニミニ公選法違反

 今回の選挙は「石丸伸二候補」が集票し、立憲民主党の「蓮舫候補」を下したため「SNSで選挙が変わった」式の、かなりお気楽な観測が流されています。

 しかし、情報倫理の観点から、私はそんな楽天的なことは考えていません。

 とりわけユーチューブをはじめとするネット音声動画では、特定の候補を当選させるべく、別の候補のネガティブ・キャンペーンを行う体の情報があふれ返って、一つひとつが細かく見れば「ミニミニ公職選挙法違反」の塊のようになっている。

 ただ、交通警察が道端で立小便しているおっさんをいちいち検挙しないのと同様、旧式のアナログ手法では手が回り切らない、といった理由で野放しになっている。

 それではことは済まないところまで来ていることを、専門の観点から指摘する必要があります。

 そもそも日本のネット、ネット広告や音声動画は、実質的に無法状態にある、残念な惨状を呈しています。

 例えば、「東大京大で30年研究」から「東大卒の研究員が開発した」の類に至るまで、「薄毛治療」「ダイエット」「水虫」などのフェイク記載を見ない日がありません。

 ほぼすべて完全な虚偽記載と断じて構わないでしょう。

 そんなものをいちいち相手にしている事務官の対処体制が、いまの大学には一切ありません。

 実際の大学は、自動システムによるネット攻撃類だけでも毎日大変な数に上り、セキュリティ対策だけでも驚くほどの仕事量になっている。いちいち小さなことに対処する余裕はないのです。

 同様に、いまや万人が情報配信元となることが可能なインターネット環境、今回の都知事選でも、個人から企業まで特定候補を応援し別候補に疑義を呈する言明は、ツイート(“X”)などのSNSからホームページ、音声動画まで、枚挙に暇がありません。

 狙い撃ちしてネズミ捕りなど仕掛ければ、捕まる地雷を踏んでいる人がありますが、そのすべてを検挙などすることは警察の能力を完全に超えており、対処できません。

 だからといって、すべてを放置してよいわけがなく、極めて悪質、あるいは構造的に問題があるものに対しては、刑事司法を含む処罰規定が必要ではないか、と情報倫理の観点からは考えられるのです。

 その典型と言えるものが、「政府や地方公共団体の公式ウエブ」上での「公職選挙法」違反、つまり今回「小池百合子知事」がやらかした定例記者会見での選挙PRをそのまま都の公式ウエブに乗せた不法行為でしょう。

 このような犯罪が繰り返された場合、都の職員にはとどまらず、首長にまで、罰金以上の罰則のついた法的措置が講じられる必要があると考えられます。

 なぜか?

 テレビにおける「放送法」「電波法」のシバリがあるからです。