ノーベル平和賞を受賞した日本被団協。そんな驚きのノーベル賞の裏側で、フランスのパリ近代美術館では核をテーマにした美術展が開かれている。19世紀の科学的発見から始まり、広島・長崎や米軍による核のプロパガンダ、チェルノブイリ事故後の世界をアートで表現している。どのような美術展なのだろうか。(永末アコ:フランス在住ライター)
核兵器を保有し、原子力発電所の数は世界トップ級の「核の国」フランス。その首都パリで、この国の公共機関として初の核をテーマにした美術展が開かれている。
場所は20〜21世紀モダンアートのコレクションで有名な、セーヌ河岸の美しいパリ近代美術館。「核の誕生から今日に至る歴史を、あくまでアーティストたちの視点で見せています」とチーフキュレーターのジュリア・ガリモス氏。
教科書にあるような味気ないタイトルである「原子時代」と、「原子をテーマに20世紀の近代化を振り返る」という礼儀正しいコピーが、その内容の濃さや熱と相反して逆に印象に残る展覧会になっている。
展示は「19世紀の科学的発見」からイノセントに始まる。キュリー夫人やレントゲン氏によるラジウムやX線の発見の時代。物質の意義が揺れて、アーティストたちは外観の模倣から解放され、抽象作品が誕生した。
音楽のごとく色彩がキャンパスに舞うカンディンスキー、ドリップペインティングのポロック、ダンスも抽象的な「ラジウムダンス」のロイ・フラーが名を馳せた。
そして「マンハッタンプロジェクト」の記憶。オッペンハイマーによる原子爆弾作りの背景はクリストファー・ノーランの映画でも語られている。「映画はアメリカの視点のみですが」とガリモス氏。
続いて「広島と長崎」。被爆者が時を経て描いた20余枚の絵のある壁一面から、特別なオーラが漂う。多くの人が絵の前に長い間佇み、添えられた文をじっくり読む。目を赤らめる人もいる、展覧会の目玉の一つだ。