セーヌ川を舞台にしたオリンピック競技会場のイメージ(写真:Ville de Paris )セーヌ川を舞台にしたオリンピック競技会場のイメージ(写真:Ville de Paris)
  • パリオリンピックまで3カ月。トライアスロンやマラソンスイミングなどの競技のために、セーヌ川の浄化プロジェクトが進められている。
  • パリ市は競技の開催に自信満々だが、とろりと不気味な茶色に輝くセーヌ川に、パリ市民は半信半疑だ。
  • あと3カ月でセーヌ川は泳げるレベルになるのだろうか。

(永末アコ:フランス在住ライター)

 フランスと日本の常識に違いは多々ある。“工事”に関しても同様で、中でも“工事終了予定”の常識はかなり違う。フランスの工事はどんどん伸びる。工事開始時に提示された終了予定はあくまで予定、約束ではない、フランスの常識として。

 例えば、昨年夏に始まった我がアパルトマンの外壁塗装工事の終了予定は3カ月後の11月だった。もちろん12月に入っても終わる様子はなく(進んでいる様子も)「年明け終了予定」に変わった。が、4月中旬の今も依然工事は終了していない。

 アパルトマンは鉄パイプの足場と厚いカバーで覆われ、外も見られず、朝も昼も夜も蚕の中のような光の届かぬ、風も通らない暮らしが早9カ月。住人たちと「うんざりね」と漏らしあっても、工事責任者に歯向かうことはない、常識的に。

 オリンピックを前に、パリは今、世界からやって来るアスリートや観光客を快く迎えようと工事ラッシュだ。道は工事のほこりをかぶった長い塀や柵だらけで、車もタクシーもバスも、至るところで迂回を強いられる。メトロのいくつかの駅は工事中で飛び越し。どの工事も終了“予定“はオリンピック前だ。

 当然、本当に終わるのか?とサスペンス状態。中でも公約である「セーヌ川でオリンピック競技(トライアスロン、マラソンスイミング等)をする」ための川の清浄化プロジェクトは「危うい」と市民は感じている。

 2015年に始まった汚水処理システムの現代化工事、巨大な貯水槽工事はどうなっているのだろうか。オリンピックまで3カ月に迫った春のセーヌ川は、とろりと不透明な茶色である。

4月に撮影したセーヌ川①4月に撮影したセーヌ川①
4月に撮影したセーヌ川②4月に撮影したセーヌ川②
4月に撮影したセーヌ川③4月に撮影したセーヌ川③

 そんなセーヌを前に、パリの人々は「無理」「自分なら絶対泳ぎたくない」と冷めている。対照的にパリ市長のアンヌ・イダルゴは「予備プランはありません。それくらい本気です。もちろん私もセーヌに浸かります」と強気だ。

 なにしろこのプロジェクトにパリ市、国、イル・ド・フランス地方自治体は、総計14億ユーロを投資。イル・ド・フランス地方知事は衛生管理のため3億円をかけ約2万4000の新しい給水接続箇所も加えたと胸を張る。

 実は「セーヌを泳げる川にする」プロジェクトはこれが初めてではない。