
欧州委員会は強化する予定だった4つの環境規制の発効を延期すると発表した。背景にあるのはEUの国際経済力の低下。高インフレと厳しい環境規制がその元凶である。EUは環境規制に関するルールづくりをテコに国際政治での存在感を発揮しようとしてきたが、その戦略は頓挫しかけている。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会は2月25日、強化する予定だった4つの環境規制について対象を見直すとともに、発効を延期すると発表した。その中でも中心となるのが、企業に多大な負担を強いることになると懸念されていた、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)の見直しであり、延期である。
このCSDDDは、EU域内の企業に対して、その企業活動に際して環境や人権に負荷をかけていないかを確認・管理するとともに、その状況を年次報告書に記載することを義務付けるものである。対象は従業員数が1000人以上、年間純売上高が4億5000万ユーロを超える企業、つまり大企業であり、EU国籍の企業かどうかは問われない。
欧州委員会は、域内市場での競争の条件を平等化するという観点から、日系を含めた非EU国籍の企業に対しても、CSDDDの順守を要求している。環境や人権に対する負荷を軽減しなければならないという欧州委員会の姿勢は立派だが、一方でその取り組みに伴うコスト負担は、EU域内で事業を行う企業に重く伸し掛かることになった。
欧州委員会は従来、CSDDDを2027年7月より順次適用する方針だったが、今回の決定でこれを延期する。それ以外にも、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)については、中小企業への適用を除外したうえで適用開始日を延期する。さらに、EUタクソノミーや国境炭素調整措置(CBAM)についても、適用の対象を大幅に緩和するという。
それぞれの詳細には触れないが、要するに欧州委員会は、これまでの環境規制の強化を重視する産業戦略の修正に追い込まれたわけである。背景には、ウルズラ・フォンデアライエン委員長を中心とするEU執行部が強化してきた種々の環境規制が、EU経済の国際競争力の低下の大きな要因となったことに対する、問題意識の高まりがある。
ここでコロナショック前の2019年を基準(100)とする実質実効為替レート(REER)の動きを確認したい(次ページ図表1)。