
同盟国に軍事費の積み増しを求めるトランプ政権の狙いは在外米軍の活動縮小にあると言われている。もっとも、米国が世界の警察としての役割を放棄すれば、米国に対する世界の信用も失われる。その時に、基軸通貨であるドルの信用力にどのような影響を与えるのだろうか。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
米国のトランプ政権が同盟国に対して軍事費の積み増しを迫っている。
そもそも北大西洋条約機構(NATO)は加盟国に軍事費を名目GDPの2%に拡大するように要請していた。トランプ政権は、これをはるかに上回る軍事費の増額を同盟国に対して迫っている。欧州連合(EU)も危機感を募らせており、軍事費積み増しの議論を急いでいる。
同盟国に対して軍事費の積み増しを要求している理由は、トランプ政権が在外米軍の活動を縮小しようとしているためだ。
とりわけトランプ政権は、ウクライナ情勢に対するEUの関与の仕方に対して不信感を持っているようだ。ウクライナ情勢は真に欧州の問題であるので、欧州が相応の軍事(防衛)支出をすべきだというところだろう。
同時にトランプ政権は、米軍による警察力の傘の下に入りたいなら、相応の対価を支払えと同盟国に迫っている。こうした圧力は、日本のみならず、台湾や韓国といった東アジア諸国にも及んでいる。
これに先んじて、トランプ政権は、米国際開発庁(USAID)の実質的な解体も進めている。途上国支援から本格的に手を引いたわけである。
トランプ政権は、世界の警察としての米国の責務を放棄しているようにも見受けられる。孤立主義外交は確かに、トランプ大統領が所属する共和党の基本的な外交路線だが、トランプ大統領が目指す孤立主義外交は、伝統的な共和党のそれをはるかに凌駕しているようにも映る。
いずれにせよ、米国は今、世界各国に圧力を加えている。