軍事費削減と米ドルの信用力を巡る問題
ところで、各国の軍事費の増額を迫るということは、米国自身の軍事費は圧縮される。軍事費の圧縮は財政の健全化に資するため、米ドルの信用力を改善させる効果もある。
ここで、米国の財政収支の動きを軍事費と軍事費以外の支出に分けて確認すると、近年、米国の軍事費は名目GDPの3%程度にとどまっている(図表2)。
【図表2 米国の財政収支と軍事支出】

東西冷戦が最も深刻だった1960年代初頭には10%近い軍事費が計上されていた。新冷戦と呼ばれた1980年代前半でも7%近くの軍事費である。その時代と比べれば、既に米国の軍事費は相応に圧縮されていると言える。
見方を変えると、米国が世界に警察力を提供するに当たっての軍事費の均衡ラインは、現代においてはGDPの3%ということなのかもしれない。
米ドルの信用力の回復という点でベストなシナリオは、米国がこの均衡ラインの軍事費を維持しつつ、他の歳出の削減に臨んで財政収支の健全化を図ることだろう。
ただ、各国に軍事費の積み増しを迫るトランプ政権の下では、そうした展望は描けない。それにトランプ政権は減税も重視しているため、財政の健全化が進むかどうかは定かではない。
トランプ大統領は、為替レートという意味では弱いドルを望んでいるが、信用力という意味では強いドルを望んでおり、新興国を中心とするドル離れの動きに対して不快感を露わにする。
一方で、トランプ大統領のこれまでの振る舞いは信用力の低下につながる恐れのあるものだが、トランプ大統領自身、その矛盾には気づいていないようだ。