問題はトランプ後の政権運営

 現実的には、自らの安全保障にも関わってくるため、米国による軍事力の供給減は限定的なものとなるだろう。

 また、米国は三権分立が徹底しているため、トランプ大統領がいかに傍若無人でも、それに歯止めをかける仕組みが整っている。身内である共和党からもクギを刺されるため、トランプ大統領の思惑はそう簡単には実現しない。

 一方で、それが分かっているからこそ、トランプ大統領は実質2年半とされる任期の間、自らの政治的な成果を出すことに必死になっているのだろう。

土田氏の新著『基軸通貨

 もともとトランプ大統領の交渉術は、高い球を投げることから始まる。そして現実的な落としどころを探るわけだが、最初の任期よりも今回の任期の方が、球そのものの高さは着実に高まっている。

 トランプ政権下でドル安が進むとしても、それは必ずしも信用力の低下を意味するものではない。問題は、トランプ大統領のような主義・主張を受け継ぐ政治家が、米国で長期にわたって政権を運営するときだ。

 米国で軍事力と経済力の供給を本格的に見直そうという動きが進めば、米ドルの基軸通貨としての信頼は着実に揺らぐと予想される。

 しかし、それはかなり先のことだろう。そして、それがいつになるかは誰も分からない。少なくとも、そのトリガーを引くのがトランプ大統領になる可能性は低いと考えられる。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。