椎名武雄氏(2009年、撮影:横溝敦)

 外資系IT企業といえば、GAFAMなどの新興企業が頭に浮かぶ。しかし20世紀における外資系IT企業の筆頭はIBMであり、コンピューター業界のガリバーと呼ばれていた。日本市場では、通産省(現経産省)の政策もあって苦戦した時期があったが、米国本社に「偉大なる成功」と言わしめるほどの結果を残したのが、社長・会長を務めた椎名武雄氏だった。それを可能にしたのが、「Sell IBM in Japan, Sell Japan in IBM」という言葉だった。

「ネアカ」こそが組織を動かす原動力

 経営者の一つの条件に「ネアカ」が挙げられる。組織を率いるリーダーが悲観的では部下がついていかない。社員の士気を高めるためにも、経営者は楽天的に、明るく振る舞わなければならない。

 そのため多くの経営者が、本音はともかく、ネアカを装っている。そんな経営者の中で、筆者が「この人以上のネアカ経営者はいない」と思うのが、本稿の主人公で、日本アイ・ビー・エム(IBM)で社長・会長を務めた椎名武雄氏(1929年─2023年)だ。

 とにかく明るい。大きな声で話し、大きな声で笑う。岐阜生まれなのに江戸っ子に負けないほどのべらんめえ調で、歯に衣着せぬ物言い。なのにそれが嫌みにならず、多くの人に愛された。この性格が、日本IBMを日本市場に定着させた。