写真提供:©Kristian Tuxen Ladegaard Berg/©Beata Zawrzel/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ
イノベーションは無から有を生み出すことではなく、既存の物事を新たに組み合わせることによって生まれる――そんな認識の下、組織や事業、技術の革新を目指す企業は少なくない。しかしその具体的な手法を見いだせず、過去の延長線上に留まっているケースが多いのが実情だ。本稿では、『創造する組織 多様性からイノベーションを起こす実践的方法』(永井翔吾著/BOW&PARTNERS発行)から内容を一部抜粋・再編集。イノベーション創出の鍵となる「パラドクス戦略」に着目し、企業事例を基に、対立する価値観・戦略を統合して創造的な革新を実現する方法を明らかにする。
両利きの経営が頓挫したIBMと、イノベーション戦略による成功が一過性に終わったレゴ。両社の失敗から得られる教訓とは?
うまくバランスをとれなかったIBMの教訓
『創造する組織』(BOW&PARTNERS)
さて、ここまでは好事例を紹介しましたが、バランス戦略のポイントをつかむには、うまくいかなかった事例を確認することも重要です。IBM*1の教訓を見てみましょう。
IBMは、既存事業を深めていく「知の深化」と新規事業を生み出す「知の探索」のパラドクスを乗りこなす両利きの経営を目指して、様々な取り組みを行っていました。この取り組みは、バランス戦略に関して、多くの教訓を残しています。
例えば、IBMには、下位部門を設立して、イノベーションを組織本体と完全に区別したチームがありました。そうすることで、短期的な緊張関係を避けることができました。
しかし、これらの事業部は相乗効果を得ることはできませんでした。イノベーション部門は、現行製品に関連する、既存の知識、スキル、市場、その他のリソースをほとんど入手できず、現行製品側も、イノベーションが生み出した新たなインサイトとエネルギーから利益を得られなかったのです。時間が経つと、共通の価値観やパーパスの不在もあり、下位グループ間での競争が激化し悪循環を招いてしまいました。
*1 ウェンディ・スミス教授、マリアンヌ・ルイス『両立思考』(産業能率協会マネジメントセンター、2023年)






