
(舛添 要一:国際政治学者)
ウクライナ戦争の早期停戦を試みるトランプ大統領は、ロシア寄りの姿勢を示す一方、ゼレンスキー大統領との首脳会談では激しい口論の末に決裂。そしてアメリカはウクライナヘの軍事支援を停止した。その後、関係修復が企てられてはいるが、この事態に衝撃を受けているのがヨーロッパ諸国である。
アメリカ第一主義
現在のヨーロッパの安全保障はNATOを基軸としている。つまり、アメリカとの軍事同盟、集団的安全保障である。
アメリカがNATOのリーダーなのであるが、トランプ政権は、そのことの自覚も無ければ、欧州防衛にコミットする気も無い。要するに「アメリカ第一」なのである。つまり、アメリカの資源を注ぎ込んで他国を守るよりも、様々な「取り引き(deal)」によってアメリカを豊かにすることのみを考えている。
日米安保についても同様で、条約の片務性を問題にしてきている。
アメリカ第一主義は、経済分野では輸入品に関税を課す政策であり、またグリーンランドの所有やパナマ運河の返還を求める政策となっている。ウクライナ戦争でも、ウクライナの鉱物資源を入手することを停戦仲介の対価にしている。
そこには、自由な民主主義を守るとか、国際法を遵守するといった高い理想はなく、利益を獲得するというビジネスマン的発想しかない。
ウクライナに対する今回の軍事支援の一時停止措置にしても、ポーランド外務省が批判するように、アメリカからは「NATO加盟国に対して、何の相談も情報もなかった」のである。