EDC構想は、1950年にフランスのルネ・プレヴァン首相が提唱したのであるが、1954年にドゴール派の反対によってフランス国会で批准されず、実現しなかった。
単独ではいつもドイツに戦争で負けているフランスは、第二次世界大戦後も対独恐怖心が消えなかった。とくに、ヒトラーにパリを陥落させられ、フランスがドイツに占領された苦い記憶がある。そこで、西ドイツ軍と合同で欧州統一軍を作ることなど論外だったのである。その後も、EDCが日の目を見ることはなかった。
アメリカは、1949年にNATO(北大西洋条約機構)を発足させ、1955年には西ドイツを再軍備させてNATOに加盟させた。アメリカは、そのことが西側の対東側結束を強め、同時にドイツの軍事的脅威を取り除くことになるという考えであった。
しかし、ドイツの脅威に晒されてきたフランスは、このアメリカの構想を阻止する方法として、EDCをプレヴァンが提案したのである。
NATOは機能停止か?
トランプがウクライナのNATO加盟に反対しているため、ゼレンスキーは、ヨーロッパ統一軍の結成を求めているが、2週間前の私の論考では、それは容易ではないという結論であった。
ところが、トランプ・ゼレンスキー決裂によって、EDC実現の可能性すら見え始めたような気がする。しかも、マクロンがフランスの核抑止拡大論を展開したために、さらにそれが現実味を増してきた。
NATOの盟主はアメリカである。そのアメリカがヨーロッパの防衛には無関心で、ヨーロッパはヨーロッパ自らで守れというのであれば、NATOは機能を停止する。
1989年にベルリンの壁が崩壊し、米ソ冷戦が終わった。そして、1991年にはソ連邦が解体した。このことは、ヨーロッパ諸国の防衛政策や経済政策を大きく変えることになった。
ドイツがその典型で、ロシアの天然ガスを安価に購入し、工作機械や自動車を輸出するなど経済関係を強化していった。
緊張緩和はヨーロッパを軍縮へと導いた。自前の軍需産業を強化せずに、アメリカなどから武器を輸入する方針を進めたのである。その結果、ウクライナ戦争勃発後には、EUの武器調達の6割がアメリカから、それも含めて8割は域外からであった。つまり、EUは、必要な武器を自給自足できなくなっているのである。
そこで、昨年には、EUは、2030年までに武器の40%を域内で共同調達することを決めたが、今回のトランプ政権の登場で、その計画をさらに強力に推進することにしたのである。
アメリカのトランプ政権の誕生は、以上のように、ヨーロッパに防衛戦略の根本的見直しを迫っている。日本にもまた、先述したように、日米安保条約の見直し、防衛費の増額というような様々な要求が突きつけられるであろう。
「防衛オタク」の石破首相は、日本の国益を守るために、どのような対トランプ戦略を構築するのであろうか。