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 トランプ大統領は政権の意向に沿わないメディアに対して様々な圧力をかけています。例えば、多様性を推進してきたディズニーもその一つで、トランプ政権との距離感に苦慮しています。そして、AIの急速な普及により、クリエーターたちの権利が侵害されるといった懸念も広がっています。いま、アメリカの映画やテレビ、文化産業で何が起きているのか。

 長年アメリカに暮らし、社会や文化を見続けてきた映画評論家の町山智浩氏に、ドイツ出身で日本を拠点に活動するマライ・メントライン氏が話を聞きました。3回に分けてお届けします。

※JBpressのYouTube番組「マライ・メントラインの世界はどうなる」での対談内容の一部を書き起こしたものです。詳細はYouTubeでご覧ください。

(収録日:2025年12月19日)

トランプを批判できないメディア

マライ・メントライン氏(以下、敬称略):アメリカの映画業界などはリベラルな人が多い印象がありますが、実際にトランプ政権に対する反発は広がっているのでしょうか。

町山智浩氏(以下、敬称略): 反発は起きてはいますが、今はトランプ政権のメディアに対する圧力で封殺されている状況です。本来、メディアというのは権力を監視する役割がありますが、その機能がほとんど効かなくなっている状況です。

 ABCニュースの司会者ジョージ・ステファノプロス氏は、「トランプはレイプをしたと認定された」といった趣旨の発言をしました。実際には、裁判で認定されたのは「レイプ」ではなく「性的暴行」だったようで、トランプ側が名誉毀損で訴えると言ってきました。法的には争える余地があると考え、ステファノプロス本人も争うつもりでしたが、ABCが1500万ドル(約23億円)を支払い、トランプが和解に応じたと報じられています。

マライ:それはつまり、企業のトップがトランプとは裁判をやらない方が得だと判断したということですか。

町山:そうです。実はABCのオーナーはディズニーです。今、ディズニーはトランプと非常に難しい関係になっています。

 ディズニーは長年にわたり、多様性を経営の中心に据えてきた会社です。作品の中でも、スタッフの雇用でも、昇進でも、女性やゲイ、アジア系、アフリカ系の人たちを積極的に起用してきました。

 ところがトランプ政権は、就任直後に反DEI(多様性・公平性・包括性)の大統領令に署名しました。これは多様性や包括性を会社の方針としている企業に制裁を与えるということです。ディズニーとしては相当まずい状況ですよね。

マライ:ディズニーはどう対応したのですか。

米ディズニーのボブ・アイガーCEO=2018年資料写真(写真:ロイター/アフロ)米ディズニーのボブ・アイガーCEO=2018年資料写真(写真:ロイター/アフロ)

町山:CEOのボブ・アイガー氏は、役員や株主に意見を求めました。実は僕も株主の1人で質問状が届きました。「ディズニーはDEIをやめた方がいいですか」と。すると、大半の株主が反対しました。

 一方、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートがあるフロリダでも州知事が反DEIの方針を背景に、ディズニーワールドに対して、税制優遇を取り消すなどといった圧力をかけました。その結果、ディズニーの株価は大きく下落しました。

 今のアメリカのメディアや映画産業は、トランプ政権に迎合しないと会社そのものが続けられないのです。放送の許認可などに政権が介入しているからです。CBSでトランプ批判を続けていたコメディアン・俳優のスティーブン・コルベアが番組を失い、ABCの著名司会者ジミー・キンメルのトーク番組も、トランプ批判が強すぎるとして、連邦通信委員会から圧力があり一度止められています。