アメリカ社会の混乱が一段と深刻さを増しています。トランプ前大統領の求心力低下や政策の迷走が指摘されるなか、各地の選挙では共和党が相次いで苦戦。一方、民主党も明確な対抗軸を示せず、勢力図は揺れ動いています。分断が広がるアメリカ社会でいま何が起きているのか――。長年にわたり日本とアメリカの文化を行き来し、両国の空気を肌で感じてきた翻訳家の兼光ダニエル真氏に、ドイツ出身で長年日本に暮らす著述家のマライ・メントライン氏が話を聞きました。2回に分けてお届けします。
※JBpressのYouTube番組「マライ・メントラインの世界はどうなる」での対談内容の一部を書き起こしたものです。詳細はYouTubeでご覧ください。
(収録日:2025年11月12日)
不法移民排斥が農業の労働力に影響
マライ・メントライン氏(以下、敬称略):兼光さんは日米両方の状況を長年見られていますが、最近のアメリカの空気を一言で表すと何でしょうか。
兼光ダニエル真氏(以下、敬称略):一言でいえば「disoriented」、混乱している状況です。与党・共和党、野党・民主党の双方が混迷を極めていると思います。
まず、トランプ大統領の政策は非常に変わりやすく、ぶれが大きい。例えば、選挙活動では「犯罪者の不法移民だけを追放する」などと言っていたのに、実際には幅広く不法移民を追い回すようになっています。
米国経済は、農業・畜産業を中心に不法移民の労働力に支えられている部分が大きく、働き手が突然いなくなると産業が成り立ちません。共和党支持の多い農業・畜産業の人々からは「話が違う」と不満に思う人も当然いるでしょう。
さらにトランプ大統領は「経済を立て直す」「関税でアメリカを強くする」と主張しましたが、実際の成果は乏しい。インフレの警戒感は高まっており、貿易政策の大きな転換も見えません。
トランプ支持層の中核である「Make America Great Again(MAGA)」の人たちは、少女買春などの罪で起訴された米富豪のジェフリー・エプスタイン氏の関連資料の公開を期待していましたが、最近、トランプ氏はこの問題についてあまり関心を示していません。彼はショーマンシップこそありますが、実際の政策実現に疑問符がつき始めているという状況です。