大連のロシア人街(筆者撮影)
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
高市早苗首相の発言に対し反発する中国は、国民に対して日本への渡航自粛を呼びかけている。中国の航空会社も日本便の数を絞り込んでおり、日本に入国する中国人観光客の数は激減している。そのタイミングを見計らったかのように、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は12月1日、中国人のビザなし入国を認める政令に署名した。
今回のロシアの決定は、遡ること3カ月前の9月2日に、中国が先行して発動したロシア人のビザなし入国の容認に呼応するものだった。こうした決定がなされた背景には、経済協力関係を緊密化したい両国の思惑があるようだが、特にロシア側の視点に基づくならば、インバウンド観光と外貨繰りの厳しさを緩和したい思惑があるとみられる。
ロシアの入国者数は、コロナショック直前の2019年までは年間2500万人程度だったが、コロナショックが生じた2020年に600万人台まで減少した。その後、2024年までに900万人を超える水準まで回復するが、依然としてコロナショック前の半分に満たない状況である。
直接の理由は、いわゆるG7による経済・金融制裁があるようだ。
G7による経済・金融制裁の結果、ロシアの経済取引にはさまざまな制約が生じている。旅行客の視点で言えば、もはや米欧日のクレジットカードは利用できないし、海外保険の適用も制限される。それに、直行便の就航を取りやめた国も数多い。欧州連合(EU)と英国からの入国者が激減していることが、その何よりの証左と言えよう(図表)。
ロシアの国籍別入国者数(注)コーカサスにはアブハジアを含む。(出所)ロシア連邦統計局、ロシア中銀
こうした入国者数の減少を受けて、ロシアの旅行サービス輸出もまた低迷している。
ロシアの旅行サービス輸出は、コロナショック前には名目GDP(国内総生産)の0.15%程度だったが、コロナショック以降は約0.05%と3分の1程度に過ぎない。直後のウクライナ侵攻もあって、ロシアのインバウンド関連産業の業況は文字通り冷え込んでいる。
中国からの入国者も回復が遅れており、2024年時点で120万人程度と、コロナショック直前の2019年の約190万人に比べると3分の2程度にとどまっているのが現状だ。