日本国民が直面している最大の問題がインフレであり、必要な処方箋は財政拡張を抑制し、利上げを進めること(写真:アフロ)
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(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

 10月4日の自民党総裁選で高市早苗新総裁が誕生した直後、筆者は「高市新総裁の行く末は英国のトラス元首相かイタリアのメローニ首相か、保守派の女性首相という共通点も結果は正反対」というエッセイを書いた。その時の副題は「“高市首相”の試金石は日銀・金融市場との関係、余計な一言がさらなる円安を生む」だった。

 その余計な一言が、早くも政権の関係者から発せられた。具体的には、大型の補正予算を組む一方で、日銀の利上げには反対するというメッセージが出されたのだ。11月18日、日本の金融市場は株安・円安・債券安の“トリプル安”に陥ったが、少なくとも円安と債券安に関してはこの関係者のメッセージが材料視されたようだ。

 政府が世界で最大規模の債務を抱える日本の場合、中銀たる日銀が国債を買い支えているからこそ、つまり日銀が政府の支払い能力を支えているからこそ、格付け会社が投資適格級の評価を与えている。ただ、その評価はシングルAランクであり、主要国ではイタリアに次ぐ最低水準である。いたずらな財政拡張は、当然ながら格下げの理由になる。

 日銀が低金利を維持しているのは、言ってしまえば財政を維持するためだ。日本の物価は十分インフレなのに、日銀が利上げに慎重な姿勢を維持する理由の一つがここにある。にもかかわらず、財政をさらに拡張すれば、日銀はますます利上げしにくくなる。通貨の信用力は基本的に財政運営の健全性に依拠するため、円安が加速するのはある意味で当然だ。

 それに、今の日本経済は基本的にスタグフレーション(景気停滞と物価高進の併存)気味であるから、財政を拡張して需要を刺激しても、物価が高騰するだけで問題がますますこじれていくことになりかねない。そうした状況の中、大型の補正予算を組むと明言し、同時に日銀の利上げをけん制したことで、債券安と円安の併発をもたらしたようだ。

 ここで再び、冒頭で述べたエッセイに戻りたい。