求められることはインフレの抑制
英国のトラス元首相が大規模減税を打ち出せた最大の理由は、当時の英国の与党・保守党が、下院の過半数を掌握していたためだ。言い換えれば、それが実施される可能性が強く意識されたからこそ、英国の金融市場は大混乱に陥った。一方、イタリアのメローニ現首相は連立を組むことによって、下院の過半数を維持している状況にある。
つまりイタリアには、連立内での相互牽制が一種のブレーキとして働く構造が成立している。もちろん自民党内にも、財政運営の健全性を重要視する勢力は存在する。また今の高市政権と連立を組む日本維新の会は、社会保険料の引き下げなどに代表される“小さな政府”路線を主張しており、彼らが一種の歯止め役になることが期待される。
今一度整理すべきは、日本国民が直面している最大の問題がインフレだということである。それを抑制するためには、財政拡張を抑制し、利上げを進める必要がある。そのうえで、投資減税など供給を刺激するための減税ならまだ筋が通る。そうしたメッセージを発することができれば、金融市場は好意的な反応を示すだろう。
高市首相の政策が財政運営の健全性に配慮せず、いたずらに財政を拡張するとは考えにくい。日銀の利上げを阻むようなこともないだろう。ただし、それらが意識されたとき、金融市場は必ず牙をむく。それを体現したのが英国のトラス元首相だ。メローニ首相が持つ卓越したバランス感覚に学ぶことを、高市首相には改めて期待したい。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。
