市場の警告に耳を傾けなければトラス化も

 当時、10月末に予定されていた日銀の会合で、物価高を抑制するために利上げが行われるという観測が高まっていた。そこで高市首相が日銀の利上げをけん制するような発言をした場合、さらなる円安につながり、結局は日銀が大幅な利上げをせざるを得ない状況になる可能性があると指摘した。

 筆者だけはないが、高市首相がイタリアのジョルジャ・メローニ現首相になるのか、あるいは英国のリズ・トラス元首相になってしまうのか、と論じるエッセイは少なからずあった。タカ派でありながらも、卓越したバランス感覚でイタリア政治とイタリア財政を安定に導いたメローニ首相の手腕を評価する声は多い。

 他方で、同様にタカ派色を前面に出しつつ、代替財源がない大規模減税を打ち出したトラス元首相は、英国の金融市場を大混乱に陥れてしまった。結局、レタスの鮮度にも劣る短さでの辞任を余儀なくされ、その後の総選挙で議席さえ失う結果となった。果たして、高市首相はメローニ首相になれるのか、それともトラス元首相になるのか。

 少なくともマクロ経済政策面において、高市首相は必ずしも不用意な発言をしていない。ただ、政権関係者の不用意な発言が金融市場で材料視された。つまり金融市場は、財政のさらなる拡張と金融緩和の維持をよしとしていない。もしよしとしていたら、国債も買われて円も買われる。よしとしないから、国債も円も売られたわけである。

 日本国民は今、物価高に喘いでいる。それを改善するには、円高に誘導する必要がある。円高であれば輸入物価が下がり、国内物価も安定するからだが、そのためには健全な財政運営に努めると同時に、小幅でも利上げを進めていく必要がある。それとは真逆の処方箋を政権の関係者が提示したことで、国債と円は同時に売られることになったわけだ。