ビザなし入国の容認の背景にあるロシアの切なるニーズ
なお、筆者は今年6月、中国の大連を訪れた際にロシア人街を訪問した。ロシア人街とは実は名ばかりで、中国人が経営する建物がすべてレプリカの土産物店が並ぶ一角に過ぎないが、国内の観光客は多く訪れていた。ロシアにエキゾチズムを感じる向きはあるようだが、そこでロシアの土産物を買う中国人はそれほど多くなかったように見受けられた。
資金もノウハウもないロシアが、ロシアにしかない魅力的なサービスをただちに提供できるわけがない。しかしそのままでは、いわゆるリピーターを獲得できず、安定的な人民元の流入など見込めない。それはロシアの方もわかっており、瞬間でもいいから中国人観光客が増え、人民元がロシアにもたらされることを期待しているのかもしれない。
今回のロ中両国のビザなし入国の容認は、確かに経済協力関係の緊密化にその趣旨があるようだが、ロシア側の方に切なるニーズがある取り決めだと言えるのではないだろうか。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。