刻印前の1オンス金地金(写真:ロイター/アフロ)
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
2025年の経済の動きを総括する端的な指標は金価格だろう(図表)。年初1月2日の金の現物価格は、終値で1トロイオンス当たり2,657.16米ドルだった。それから10カ月足らずの10月2日には、取引時間中の最高値となる4,381.60米ドルまで急騰。直後、一時的に4000ドルを割り込んだが、年末には再び4500米ドル台を突破した。
金の現物価格の推移 (出所)LBMA
そもそも金価格は2024年頃から上昇ピッチを強めていた。さまざまな要因が指摘されているが、世界経済を取り巻く不安定要因が意識される中で、新興国を中心に安全資産として地金を購入する動きが加速したことが金価格の上昇につながったことは確かだろう。
さらに、2025年に入って金価格が上昇した最大の理由は米国にある。
2025年1月、4年ぶりにドナルド・トランプ大統領が返り咲いた。前年11月の大統領選の前から、トランプ氏が再登板した場合、米国が世界経済を圧迫する危険性が意識されていた。そして4月に、トランプ大統領が“相互関税”の名の下に一方的な関税の引き上げを発表すると、衝撃を受けた投資家が米国債と米ドルを一挙に手放した。
これが、いわゆる“ドル不安”である。そもそもドル不安という言葉の定義があいまいだし、その後もドル安が限定的だったことなどから、そもそもドル不安など生じていないという論者もいる。ただし、このタイミングで新興国を中心に、地金を購入する動きが加速したことは確かであるし、実際に金価格の上昇に弾みがついている。