ドル不安の受け皿にはなり得ない円
相互関税の発表で生じた円高圧力は、1年も経たずに解消された。特に11月に高市早苗首相が就任して以降、その財政拡張志向が嫌気され、円や国債が売られている。首相の経済アドバイザーの一部は、投資家が政府の支払い能力に疑念を抱いて国債を売っているのに、それに伴う金利上昇で円が買われるはずだと荒唐無稽な主張を展開している。
こうした状況では、円がドル不安の受け皿にはなり得ない。受け皿になったのはユーロだったが、ユーロを取り巻く環境も決して楽観視できない。特にEUの中心であるフランスの財政問題、ならびに政治不安は深刻を極めており、それがいつ、EU全体の金融不安に転じるか、定かではない。とはいえ、中国の元も、受け皿にはなり得ない。
膨れ上がった米国の債務は、各国の投資家が米国債を買い支えることで、維持されてきた。このメカニズムを、当の米国自身が毀損したことが、そもそものドル不安のトリガーとなった。一方で、世界的にも債務膨張の流れはまだまだ続いている。不安定な地合いが続く以上、価値保存の手段として金は好まれ続けるのではないだろうか。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。



