この四半世紀で驚くほど上昇した金価格

 ワールド・ゴールド・カウンシルのデータで需要家に確認した金の購入目的の内訳を確認すると、宝飾用や産業用の割合が後退し、投資用や準備用の割合が高まったことが見て取れる(以下図表)。投資用には、いわゆる投機的な流れも相応に含まれているはずだが、一方で価値保存のために金を買う流れも強まったものと考えられる。

金の購入理由別内訳 (注)用途の内訳は4四半期後方移動平均 (出所)World Gold Counsil

 新興国の予算にも制約があるため、新興国が地金の購入を強めれば、自ずと米国債の購入は減る。それまでの取引のルールを一方的に、かつ自らに有利に変えてくるような米国の国債を持つ意味合いなど、少なくとも貯蓄や投資の手段としては薄らいだ。それよりは、価値保存の手段としての金を買った方がいいと判断されても当然と言えよう。

 もちろん決済手段、つまり基軸通貨としての米ドルは、その抜群の流動性に支えられて健在である。もっと端的に言えば、米ドルに代わる存在がないため、世界経済は米ドルを利用し続けなければならない。トランプ大統領の言動で失われたものは、米ドル、そして米国債の価値保存の手段としての信頼感にあった。その受け皿になったのが金だった。

 金価格の上昇があまりに急であるため、投資妙味が薄れたと判断した投資家は、銀やプラチナ、パラジウムといった他の貴金属を積極的に購入した。そのため、貴金属は2025年に入って全面高となったが、それでも金は抜群の強さを持っている。2000年の平均値を1とする指数で各貴金属の価格を確認すると、金の強さが浮き彫りとなる。

貴金属価格の推移 (出所)LBMA

 つまりこの四半世紀で金の価格は実に15倍、銀は10倍になった。一方、プラチナは3倍で、パラジウムは2倍に過ぎない。世界のインフレの代理指標として、この間の米国の消費者物価指数(CPI)を併記すると、これも2倍程度である。抜群の強さを誇っていた金が2025年にさらに強さを増したことは、まさに時代の不安の象徴だろう。