
軍事支援に消極的なトランプを心変わりさせる“おいしいニンジン”
2月28日、トランプ米大統領とゼレンスキー・ウクライナ大統領はホワイトハウスで「鉱物協定」を巡る会談を開いたが、前代未聞の大口論に終わり、全世界が息をのんだ。プロレスばりの“場外乱闘”で交渉は決裂し、憤慨したトランプ氏は3月3日、制裁とばかりにウクライナへの軍事支援の一時停止を発表した。
だが翌4日の大統領施政方針演説に臨むトランプ氏の手元に、ゼレンスキー氏の関係修復を願う書簡が滑り込みで届いた。(*直後にゼレンスキー氏がSNSに書き込んだ文書を読み上げたことが判明)
「恒久的な平和の実現のため、可能な限り早く交渉のテーブルに臨む用意がある」
「鉱物資源と安全保障についての協定に、いつでも署名する準備ができている」
との内容に、トランプ氏は一転ご満悦な様子。軍事支援の一時停止の解除も時間の問題だと思われるが、「もともとゼレンスキー氏は喜劇俳優でトランプ氏はバラエティ番組の司会者だっただけに、口論自体が世間の耳目を集めるための寸劇、やらせだったのではないか?」と訝る声も多い。
懸案の鉱物協定の肝は、ウクライナ産のレアアース(希土類)で、ハイテクや航空・宇宙、軍事分野の開発に不可欠な戦略上極めて重要な鉱物資源である。産地が極端に偏在し、トランプ政権が「最大の敵」と見なす中国が世界の産出量・精製量の大半を握っているため、アメリカにとって大きな弱点となっていた。
これをチャンスと見てか、ゼレンスキー氏は「自国にはレアアースがふんだんにある」とトランプ氏に持ちかけたと見られる。ウクライナへの軍事支援に消極的なトランプ氏を心変わりさせるには、理論や理屈よりも目に見える高価な品物の方が効果的と考えたのだろうか。
レアアースという“おいしいニンジン”をトランプ氏の鼻先にぶら下げて気を引きつけ、「鉱物資源の権益」と、「軍事支援継続」「安全保障の確保」とをディール(取引)しようと迫ったのだろう。ゼレンスキー氏はなかなかのやり手だ。
なお、ウクライナがアメリカに差し出す鉱物資源は5000億ドル(約75兆円)分であるとか、地下資源の採掘で得られる利益の50%分がアメリカに入るなどと伝えられているが、正式な数値が決まるのはもうしばらく先だろう。
