本当にウクライナはレアアースの一大産地なのか?
まず、前述のロイターのインタビュー映像が、あまりにもきれいな仕上がりで、プロモーションビデオのような演出がされている点がかえって気になる。
仮に、アメリカの執拗な要求に抗し切れず、渋々レアアースを手放さなければない状況だとしたら、果たしてテーブルに「レアアース地図」を広げて、アピールする映像を撮影させるだろうか。メディアをうまく活用し、ウクライナ産レアアースの市場価値を高めるための、宣伝・情報戦のにおいがしてならない。
加えて、そもそもウクライナはレアアースの一大産地なのかという点が、何とも腑に落ちない。
「今まで機密事項だった」というのがウクライナ側の見解らしいが、本当に豊富なレアアースが地下に眠るのなら、すぐに採掘・商業化して輸出で外貨を稼ごうと考えるのが普通だろう。なぜわざわざ機密にするのか。30年以上前の冷戦時代のソ連邦や、北朝鮮のような閉鎖国家ならばまだしも、何とも解せない。
レアアースは貴重で市場価値が高く、おそらく産出すれば引く手あまただろう。しかもウクライナの国土の大半が平地で急峻な山岳地帯も少ないため、鉱山開発も比較的楽だ。
さらに同国は石炭、鉄鉱石をはじめ、マンガン、チタンなどを豊富に産する地下資源大国で、全国の平地の至る所で鉱山が掘られている。もちろんレアアースの埋蔵箇所と重複している鉱山も少なくない。


これらを考えれば、もっと以前からレアアースの有望な鉱脈の存在が、世界の資源開発業界や商社の知るところとなり、欧米や日本など外国資本が進出してもおかしくない。
仮にウクライナ戦争以前に、欧米資本、特に米企業が乗り込みレアアースの探査や試掘に本腰を入れていたらどうだろうか。ロシアのプーチン大統領は、アメリカとの軍事衝突を懸念し、ウクライナ本土への全面侵略をためらっただろう。
また地表近くにレアアースが豊富に存在していれば、資源探査衛星やドローンによる探知もある程度可能である。にもかかわらず、ウクライナの豊富なレアアースが、つい最近まで世界に知られていなかったということは、賦存量(理論的に存在する量)は豊富だが、鉱脈があまりにも地下深くで、採算ベースに乗る「可採埋蔵量」ではない可能性も十分考えられる。
これらを踏まえると、「トランプ氏はゼレンスキー氏にだまされている」可能性もあるだろう。
だが、万が一レアアースが採算に合わなくても、むしろ互いにメリットがあると考えられる。なぜなら、ゼレンスキー氏にとって資源調査・採掘の名目で米資本がウクライナに進出すれば、このプレゼンス(存在)自体が、仮に停戦実現後に再侵略を企てようとするロシアへの強力なけん制となるからだ。
またトランプ氏にとっては、2期目の大統領を目指す選挙活動中、「大統領に返り咲いたら、ウクライナへの軍事支援を直ちに中止する」と主張してきただけに、何か口実もないまま軍事支援を継続すると、矛盾が生じてしまう。
トランプ氏の強力な支持層からも批判を浴びかねず、こうした事態だけは避けたいはずだ。そのためにもレアアースはある意味で「渡りに船」の存在とも言えるだろう。
