2024年11月のG20サミットで、英国のスターマー首相は中国の習近平国家主席と会談した(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
英スターマー政権が、中国との関係改善・強化に動いている。トランプ米大統領の喧嘩外交に対抗するため、両国の利害は一致しているとの見方もある。中国はロンドンに「メガ大使館」を建設する計画も英当局に申請している。だが、香港から英国に逃れてきた民主化活動家の間では、中国による弾圧の魔の手が及びやすくなるのではといった懸念が広がっている。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
「サー・キア(英スターマー首相)に会わなければならない。もう後がない。他にどうすれば良いのかわからない」
こう話して英スターマー首相と緊急の面会を懇願したのは、約4年前に廃刊となった香港の日刊新聞「蘋果日報(アップル・デイリー)」創業者でメディア王の黎智英(ジミー・ライ)氏の息子、黎崇恩(セバスチャン・ライ)氏である。3月7日付の英インディペンデント紙の記事上、こう発言している。
父親の智英氏(77)は2020年、香港国家安全維持法(国安法)違反などの罪に問われて起訴され、現在も収監されている。今後、終身刑を受ける可能性もある。智英氏は外国勢力との共謀などについて、無罪を主張している。
崇恩氏がスターマー首相に助けを求めているのは、父親の智英氏が英国籍でもあるからだ。崇恩氏がインディペンデントに語ったところによれば、智英氏は糖尿病を患っている上、体重が大幅に減り、2021年からは独房に収監されているという。また弁護士らの証言では、1日に50分ほどしか屋外に出ることを許可されず、十分な医療も受けられていないとされている。
同じ頃、英国に亡命している香港の民主化活動家2人の隣人たちに、活動家らをロンドンの中国大使館に引き渡すよう求める匿名の手紙が相次いで届いた。手紙は香港警察による活動家らへの指名手配文とほぼ同一であり、引き渡せば100万香港ドルの懸賞金を与えるとも記されている。
ターゲットにされた民主化活動家は、鍾翰林氏(23)、および劉珈汶氏(30)だという。
この問題は3月4日に英下院で討議され、安全保障担当国務大臣は、英国内における香港人への嫌がらせは「英国の主権に対する侮辱」であり全く容認できないと述べた。その上で、香港人の安全は、現政権の最優先事項であるとした。
中国による民主化活動への弾圧が国外にまで及ぶなか、旧宗主国である英国を拠り所にしようという香港人の思いは強まる一方だろう。だが、その思いが大きな壁に阻まれる可能性が生じている。その壁とは、米トランプ大統領である。

