国が「偽」と判断するのは「検閲」では?
自由と民主主義、言論の自由に全幅の信頼を置くことを最優先し、国などの行政機関が介入するケースは刑法などに抵触しかねない必要最小限のケースに留められてきました。
しかし、あるニュースや見解を「社会的影響が重大」という抽象的な理由で、国が事実上削除できるとなったら、どんな社会がやってくるでしょうか。こうした行為はまさに「検閲」であり、表現の自由・言論の自由を保障する憲法21条で厳に禁止されているではないかというのが、総務省案への大きな懸念です。
世界では、ハンガリーやドイツ、ブラジル、エチオピアなど30カ国以上の国で“フェイクニュース禁止法”が制定されていると言われています。
偽情報を流したものには罰金や禁固刑などの刑事罰を科す国も少なくありません。そうした国々では、ある情報を「偽」と判断して訴追するのは当局です。ウクライナ戦争を続けるロシアも、侵攻後に刑法を改正し、当局が「うそニュースだ」と判断すれば、その記者らを最大15年の禁固刑に処する制度を整えました。
日本の場合、誤情報・偽情報対策はどこに向かうのでしょうか。対策の必要性そのものに異議を唱える者はいないとしても、言論の自由を脅かすことがあってはなりません。
フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。