5月21日、欧州連合(EU)で世界初の包括的な「AI法(AI Act)」が成立した。本格的な適用は2026年からで、域内における国内外の企業が対象だ。違反した企業には、最大で世界の年間売り上げの7%か、3500万ユーロ(およそ60億円)のどちらか高いほうが制裁金として科される。
EUの新法はAIをどのように規制していくのか。AIの動向に詳しい、桜美林大学リベラルアーツ学群教授の平和博氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──EUでできたAI法に関して、どんな印象をお持ちですか?
平和博氏(以下、平):2021年4月に発表された当初のAI法案は、ディープラーニング(深層学習)の発達を前提に、個別のAIサービスに着目して、特に監視や差別といったリスクに対応する形で作られていました。
ところが、その後、ChatGPTなどの生成AIが爆発的に広がることで、AIを取り巻く社会的な環境が大きく変わりました。それに応じて法律の内容も大きく変わっていったという点が、この法律の一つの特徴です。
端的なデータで言うと、当初のAI法案は100ページちょっとのものでしたが、最終的に成立したAI法は400ページを超えています。内容がかなり大きく変わったということは、ページ数の変化からも見えてくると思います。
──AIをいかに規制するかということは長らく議論されてきました。様々な網の掛け方があると思いますが、新法はどのようなコンセプトで規制をかけているのでしょうか。
平:今回のAI法は、リスクの高さに応じて対処していく「リスクベース」という考え方を採っています。この考え方に基づき、いくつかのAIの使い方を禁止しました。
分かりやすい例で言えば、「警察などの捜査における、公共空間でのリアルタイムのバイオメトリクス認識の禁止」です。街中の防犯カメラなどを使って、リアルタイムで容疑者の追跡を行うようなケースです。
現在はかなり精度の高い顔認識AIがあり、防犯カメラや街頭カメラと連結させれば、リアルタイムで容疑者を追跡することも技術的には可能です。でも、それを可能にすると、容疑者だけではなく、街を歩いている人たちみんながその監視の網にかかってしまうリスクがあります。
バイオメトリクス認識は顔だけではなく、声や指紋など様々な生態情報によって人を識別するという機能ですが、特に捜査のためにリアルタイムで使うと弊害も大きいことから禁止されました。ただ、テロ、人身売買、武器密輸などの一部の捜査は例外扱いです。
──街中での無差別な顔認識などは過剰な監視につながりそうですね。