4月に、ユニクロの親会社ファーストリテイリングの決算が発表された。今年2月までの過去半年間の連結売上高はおよそ1兆6000億円、純利益は前年と比較して27.7%増の1959億円で、この期間としては過去最高となった。北米やヨーロッパなどの海外事業が特に好調だったのが要因だ。今年8月までの、1年間の純利益の予想は3200億円。この目標額を達成すれば、4年連続で過去最高となる。
相対的に日本企業や日本経済に大きな成長の兆しが見えない中で、なぜユニクロは強烈に成長し続けることができるのか。『ユニクロ』(日経BP)を上梓した日本経済新聞編集委員の杉本貴司氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──本書では、日本を代表するアパレル企業となったユニクロの軌跡について書かれています。なぜこのテーマで本を書かれたのですか?
杉本貴司氏(以下、杉本):山口県宇部市にあった、ファーストリテイリング社長の柳井正さんの生まれ育った紳士服店は、1階が店で2階が家という、商店街によくある家族経営の会社でした。実は、私の実家も似たような環境で、1階が工場で2階が家という、大阪の町工場でした。
日本の企業は99.7%が中小および零細企業ですが、同じような境遇の企業はたくさんあるのに、なぜユニクロは他とは圧倒的な差をつけて大きくなり、バブルが崩壊していく中でも成長を続け、世界に出て成功する稀有な例になることができたのか。そこにとても興味がありました。
──柳井正氏の人生と人柄に関しては、かなりページが割かれています。柳井さんはどんな方ですか?
杉本:この本を書くにあたり、1時間から1時間半くらいのロングインタビューの機会を、何回も柳井さんからいただきました。秘書や広報の方も同席しない1対1のインタビューで、毎回とても緊張しました。柳井さんのインタビューは何度やっても緊張します。終わると、こちらはグッタリ疲れを感じる。
もちろん、あれだけのカリスマ経営者から直接お話をうかがうので、緊張して当然とも言えますが、私が柳井さんを前にすると特別に緊張するのは、柳井さんの答えがいつもとても端的だからです。
──ダラダラと説明しないということですか?
杉本:そうです。何を聞いてもズバっと返してくる。質問ごとに真剣勝負というか、どうしても遊びのない会話になります。柳井さんは社員にも同じように、敬語でズバっと本質を突く話し方をされます。私に対してもその姿勢は変わりません。
──経営者になってからの柳井さんは、学生時代と比較して別人のように変わったという印象を受けました。
杉本:ガラッと変わりましたよね。学生時代の柳井さんのことを知る方々にもお話をうかがいましたが、柳井さんは、大学を卒業してから働く気を無くして、友達の家に居候していた時期があります。その時に、居候を受け入れた方にもお話をうかがいましたが、当時の姿からは今の柳井さんは想像もできなかったそうです。
その方は、柳井さんの高校時代の友人ですが、後に高校時代の同窓会をやっても、同級生の多くが柳井さんのことを記憶していなかったと言います。柳井さんはまったく目立たない若者だったそうです。それと、麻雀ばかりしていたようです。
──柳井さんはどのタイミングで覚醒したと思われますか?