4月26日に、スマホのアプリストア市場の寡占を規制する新法「巨大IT規制法(正式名称: スマホ特定ソフトウェア競争促進法案)」が閣議決定された。これまでスマホ内でアプリを販売・提供するアプリストアは一択で、市場を独占することで、アップルやグーグルなどの巨大IT企業は、アプリ事業者に対して、偏ったルールや市場環境を押しつけてきたと言える。
政府は、スマホの中にアプリストアの選択肢を増やすことで、より公平な市場環境を用意したいと考えている。新法によって何が変わるのか。一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラムの専務理事で、この問題に詳しい岸原孝昌氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
「デジタル小作人」と化すアプリ事業者
──新法が閣議決定されました。違反行為をした企業には、国内売上高の20%分の課徴金が発生するということですが、グーグルやアップルなど、対象となる企業は具体的に何をしなければならなくなるのでしょうか?
岸原孝昌氏(以下、岸原):実は、日本にはこの問題に関して25年の蓄積があります。通信事業者がプラットフォームを提供していたガラケー時代に、行政、コンテンツ事業者、通信事業者の三者によって、NTTドコモ等が提供していたiモード等のオープン化を実現したという過去があるからです。
プラットフォーム上の青少年保護に関しても日本は先行しており、iOSに日本の知見を提供しています。
スマホのプラットフォームのオープン化が今回どうして必要なのかについては、下記のような問題意識があると思います。
【アプリ事業者の抱える課題】
●一方的な返金
●アカウント停止
●アプリのリジェクトの問題
【産業の抱える課題】
●自社ビジネスを優先したイノベーションの阻害
●高額な手数料による産業発展の阻害
【消費者利益の抱える課題】
●リンク制限等の利便性の阻害
●コンテンツや端末の高額化
●プライバシー、セキュリティ機能等の多様性を阻害
●西洋の価値観による青少年保護(クールジャパン等の日本文化の阻害)
【寡占による弊害】
●搾取
●意思のコントロール
●自社優遇によるイノベーションと国家戦略の阻害
iPhoneを例に取ると、アプリ事業者がApp Storeからアプリを販売する場合、手数料として、売り上げの30%をアップルに支払わなければなりません。
アップルが市場を作ったので「払って当然」という見方もありますが、アップル自身も説明しているように、アップルの真ビジネスモデルは端末販売であり、iPhoneの販売によって年間で30兆円の売り上げがあります。
当初2万円程度だったiPhoneの価格は、現在20万円を超え、およそ10倍に値上がりしています。アプリ事業者は、無償でアプリを製作して提供することで、iPhoneの価値を上げることに貢献していますが、販売収益から一切分配を受けてはいません。
それにもかかわらず、さらにアップルから売り上げの30%という高額な手数料を支払わされている現状です。これが、アプリ事業者が「デジタル小作人」と呼ばれるゆえんです。日本の国富の流出として「デジタル赤字」が報道されていますが、アプリストアの高額な手数料は、デジタル赤字の一つの要因です。