EUのAI新法が日本の規制当局に与える影響

──生成AIが出てきた時に、著作権の問題がよく議論されました。EUの新法では、この点に関してはどう対応していますか。

平:「汎用目的AI」を開発する場合には、著作権遵守の方針を策定し、著作権で保護されたデータを学習データとして使った場合には、そのサマリー(内訳のまとめ)を文書化する義務が課せられています。著作権者を尊重するという考え方は、このAI法の中でも明確に位置づけられています。

──規制の対象になるのか否か、見極めが難しいケースも少なくないという印象を受けますが。

平:AI法は400ページ以上で構成されています。その中には、言葉の定義やカテゴリーに含まれるもの、含まれないものなどが細かく規定されています。

 例えば、「何がハイリスクにあたるのか」といったことも、具体的に示しながら記載されています。また、実際に施行されるまでに、ガイドラインのようなものが出て、より詳細に指定されるのではないでしょうか。

──日本政府もEUとは別に、独自のAIの規制法を考えなければならなくなると思いますが。

平:これはEUの法律ですが、差別や監視につながることのない、人間中心のAIというビジョンについては日本も共通した考え方に立っています。

 日本が議長国になって開催された2023年5月のG7広島サミットでは、AIのリスクに対処するための国際的ルール作りの枠組み「広島AIプロセス」が合意されています。ここでも「安全、安心、信頼できるAI」という観点が強調されました。

 日本でAIの規制法案が検討される中では、必ずEUの例は参照されます。今回のEUの新法は日本にとっても重要な意味を持つと思います。

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長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。