バンス氏はかつてトランプ氏を批判、ワルツ氏はリベラルなのに保守的側面も
11月に投票される今回の大統領選では、副大統領候補のバンス、ワルツの両氏は選挙戦にどのような影響を与えるのでしょうか。
バンス氏はトランプ氏の「米国第一主義」を支持し、バイデン現大統領によるウクライナ支援策を厳しく批判しています。バイデン政権の移民問題に対する姿勢も「手ぬるい」として、厳格な対策をとる必要性を強調。政策テーマによってはトランプ氏以上に攻撃的な姿勢を見せることもあります。
しかし、問題もあります。バンス氏は2016年の大統領選でトランプ氏を支持せず、それどころか、トランプ氏を「アメリカのヒトラー」と評したこともあります。トランプ氏の支持を受けて上院議員に当選した後は、熱心なトランプ支持者になりましたが、過去の発言との整合性が問われる可能性もあります。
またバンス氏は、民主党のハリス氏について孤独な女性を意味する「子供のいない猫好き」と評し、批判を浴びる場面もありました。家族の価値を重視する保守派を意識したものと考えられますが、発言の不安定さは否めません。
民主党のワルツ氏は、ミネソタ州知事として電気や水道など生活インフラの脱炭素化を2040年までに達成する目標を掲げたり、不法入国者でも運転免許を取得できるようにしたりするなど、リベラルな政策を推進しました。妊娠中絶も支持しています。
こうした姿勢のワルツ氏をトランプ陣営は「危険なリベラル派」と非難しています。2020年、ミネソタ州で黒人男性が警官に暴行され死亡した事件は「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動が全米に広がるきっかけとなりましたが、その抗議活動が暴動に発展した際、知事のワルツ氏は鎮圧のための州兵出動が遅かったと保守派から批判を受けました。
民主党陣営では、2020年の大統領選でバイデン氏当選の後押しをしたサンダース氏のように左派の支持層を取り込む役割をワルツ氏に期待する向きもあります。一方でワルツ氏は銃の所有者であることを公言するなど、保守的な側面も訴えており、立ち位置がはっきりしない不安を抱えています。
今回の大統領選は土壇場で民主党が大統領候補を差し替えたことで異例の短期決戦となります。それだけに、副大統領候補の動向が勝敗を左右しかねない重要性を持つでしょう。
西村 卓也(にしむら・たくや)
フリーランス記者。札幌市出身。早稲田大学卒業後、北海道新聞社へ。首相官邸キャップ、米ワシントン支局長、論説主幹などを歴任し、2023年からフリー。日本外国特派員協会会員。ワシントンの日本関連リサーチセンター“Asia Policy Point”シニアフェロー。「日本のいま」を世界に紹介するニュース&コメンタリー「J Update」(英文)を更新中。
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