(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年7月30日付)
2024年の米大統領選挙には、注目に値する側面が数々ある。その一つは、ニュースサイクルがいかに素早く回転するか、だ。
2週間あまり前、ドナルド・トランプに対する暗殺未遂事件が起きた。
これは選挙戦の話題をさらい、争いの「形勢を変える」エピソードになると見られていた。
それにもかかわらず、その後出てきた選挙関連ニュースの量のせいで、遠い昔の記憶のように感じる。
実際、この1週間で、オンライン上で「トランプ、銃撃」を調べる米国人の数はグーグルに別の検索キーワードを打ち込む人の数に抜かれた。
「J・D・バンス、ソファ」がそれだ。
この検索は、トランプのランニングメートに選ばれたJ・D・バンスがベストセラーの回想録「ヒルビリー・エレジー」でソファとセックスしたことを打ち明けたという噂と関係している。
これは全く根拠がないただの噂だったにもかかわらず、インターネットミームを作る人たちは一斉に飛びついた。
トランプ真似たジョークがドン引き誘う
これをバンスのせいにするのは難しいが、数々の判断ミスと失言、そしてドン引きを誘うクリンジ・ファクターは本人のせいだ。
こうした要素が重なり、オハイオ州選出の上院議員であるバンスは、ことごとく間違った理由からソーシャルメディア上で話題になり続けている。
バンスはこの1週間あまりで数回にわたり、ジョークを飛ばし、人を笑わせることができる好感の持てる男としての印象を打ち出そうとした。
言い換えると、トランプのような人間だ。問題は、バンスにはそれができないように見えることだ。
トランプは自然に面白い。バンスは違う。
またどういうわけか、前者が生まれながら特権に恵まれた人生を手にし、バンスが薬物依存症の母親がいる貧困家庭に生まれたという事実にもかかわらず、少なくとも支持者たちに庶民の味方としての印象を与えることができるのはトランプの方だ。
バンスは22日、故郷のオハイオ州ミドルタウンで開かれた選挙集会で、民主党は恐らく自分が「ダイエット・マウンテンデュー」を飲んでいることも人種差別だと騒ぐだろうと言って奇妙なジョークを飛ばした。
観衆から中途半端な笑い声がまばらに上がるなかで「美味しいんだ!」と言い、ものすごくわざとらしい笑い声をあげ、トランプ風に観客を指さしてみせた。