(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年7月23日付)

大統領選はカマラ・ハリス氏vsドナルド・トランプ氏の戦いになることがほぼ決まった(写真は7月23日ウィスコンシン州の高校でスピーチするハリス副大統領、写真:ロイター/アフロ)

 政治的なメロドラマに関して言えば、米国はまだ押しも押されもせぬ世界のリーダーだ。

 大統領として再選を目指さないことにしたジョー・バイデンの決断は、ドナルド・トランプの暗殺未遂事件のわずか数日後に下された。

 だが、米国の選挙の意外なストーリー展開がショックと困惑を与え続ける一方で、その他の面では、今年の大統領選は予想可能な台本通りに進んでいる。

 バイデンが必然を受け入れ、選挙戦から撤退する前でさえ、共和党、民主党双方が恐怖に基づく選挙戦を繰り広げることは明らかだった。

 誰が民主党の指名候補になろうとも、これは変わらない。

 実際、カマラ・ハリス副大統領が順当に指名候補になれば、共和党は恐怖をあおる選挙キャンペーンの悪辣さを一段と強めるだろう。

MAGA軍団にとって格好の標的

 ペンシルベニア州出身の白人の高齢男性であるバイデンを悪者に仕立て上げることは、トランプと「米国を再び偉大に(MAGA)」軍団にとって比較的難しかった。

 ハリスはカリフォルニア州出身の黒人女性で、MAGA運動にとって絶好のターゲットだ。

 バイデンが再選を断念する前でさえ、右派の論客は、ハリスは米国初の「DEI大統領」になると吹聴していた。

 彼らは、ハリスは本人の実力ではなく「多様性、公平性、包摂性(Diversity Equity & Inclusion=DEI)」を促す政策に基づいてトップに上り詰めたと訴えている。

 共和党にしてみると、DEIは米国を弱体化させ、白人男性を差別する「ウォーク(意識高い系)」な政策の縮図だ。

 トランプはランニングメートに同じく白人男性のJ・D・バンス上院議員を選び、先日の共和党全国大会では、「It’s A Man’s World」(ジェームス・ブラウンのヒット曲)が大音量で鳴り響くなかで、バンスの演説を聞くために会場に入ってきた。

 大会では、トランプが移民とインフレ、戦争、ウォーク主義を争点にして選挙を戦うことがはっきりした。

 共和党にとっては、こうしたテーマはすべて、民主党はアメリカン・ドリームに致命的な脅威を突き付けているという主張によって結びついている。