(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年7月2日付)
エマニュエル・マクロンが大統領選挙で初勝利を収めた2017年5月7日の夜、筆者はロンドンのフランス大使館にいた。
マリーヌ・ルペンを破ったことが確定したとのニュースがスクリーンに映し出されると、集まっていた人々から歓声が上がった。
あれから7年。ルペン率いる国民連合(RN)はフランス国民議会選挙の初回投票で最も多くの票を勝ち取り、マクロンの与党は大敗した。
ルペンの愛弟子ジョルダン・バルデラが首相に就任する可能性も浮上した(編集部注:7日の決選投票ではRNが予想より伸び悩んだが、それでも獲得議席数は過去最多になる見込み)。
ブックメーカーの間ではルペンが2027年フランス大統領選挙の本命候補になっている。
極右の脅威をマクロンが完全に葬り去ってくれたとの見方は、幻想だったことが明らかになった。
中道派とリベラル派のパニック
公正を期すために言えば、リベラル派に期待しながらぬか喜びに終わった国はフランスだけではない。
2008年の米大統領選挙でバラク・オバマが勝利した時には、米国が人種問題を克服したとか今後は民主党が恒久的に議会の過半数を占めるといった見方について、期待のこもったあらゆる種類のコメントが噴出した。
オバマは知的でハンサムなうえに、ハーバード大学の出身でもあった。
2011年にホワイトハウス記者会主催の夕食会でドナルド・トランプを嘲笑した時には、オバマ・ファンが大喜びした。
それから13年経った今、あの夜のことを根に持っていたトランプが高笑いしている。
ジョー・バイデンの威信が低下し、トランプがホワイトハウスへの返り咲きに近づいているのに、オバマはなすすべもなくその様子を見つめている。
米国とフランスでは、中道派とリベラル派が完全にパニックに陥っている。
今ではナショナリスト(国家主義者)のポピュリズム(大衆迎合主義)が、一時的な逸脱ではなく西側諸国の政治の恒久的な、それこそ典型的な特徴にさえなっているように見受けられるからだ。
20世紀に見られた左派と右派の対立が、リベラルなインターナショナリスト(国際協調主義者)とポピュリスト的な国家主義者との新たな分断に取って代わられた格好だ。