中東情勢が緊迫しています。イスラム組織ハマスの最高幹部がイランで殺害され、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ幹部も暗殺されました。いずれもイスラエルが関与しているとされ、イランが厳しい報復を予告しています。パレスチナ自治区ガザでのハマスとイスラエルの戦いは10カ月を超えました。双方の停戦交渉は頓挫し、関係国を巻き込んだイスラエルとイランの「全面戦争」が現実味を帯びています。今回のハマス最高幹部の暗殺は何をもたらすのでしょうか。やさしく解説します。
ハマス最高幹部ハニヤ氏の素顔
ハマスの政治部門トップのイスマイル・ハニヤ氏は2024年7月30日、活動拠点のカタールを離れ、イランの首都テヘランを訪れていました。イランの改革派大統領、ペゼシュキアン氏の就任に伴う宣誓式に出席するためです。そして翌31日、宿舎に仕掛けられた爆弾が爆発しました。イスラエルは認めていませんが、さまざまな情報からイスラエルが殺害に関与したことは明白とされています。
62歳のハニヤ氏の人生は、反イスラエル闘争の歴史そのものでした。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、生まれたのはガザ北部の難民キャンプです。両親は1948年のイスラエル建国に伴い、現在のイスラエル領内から追い出されました。ガザの大学でアラビア語を専攻し、1987年のイスラエルへの抵抗運動(第1次インティファーダ)に参加しました。そのころからイスラエル軍に何度も拘束され、投獄されています。
ハニヤ氏は1987年発足したハマスの創設メンバーでもあり、精神的指導者ヤシン師の秘書役を務めていました。2006年にパレスチナ自治政府の自治評議会(国会に相当)選挙でハマスが過半数を占めると、ハニヤ氏は首相に選ばれました。
しかし自治政府のアッバス議長と対立。イスラエルの度重なる攻撃もあり、ハニヤ氏は2017年にカタールに拠点を移しました。ガザ地区内の統率はもう一人の最高指導者シンワル氏が担いました。
2023年10月から始まったイスラエル軍のガザ攻撃で、ハニヤ氏は身内を相次いで殺害されています。2024年4月には3人の息子と数人の孫、同6月には妹とその家族。それでもハニヤ氏は「どんな犠牲を払っても屈服しない」と語ったそうです。人質の解放を含む停戦交渉では、カタールやエジプトと連絡を取り合い、ハマス側当事者として中心的な役割を果たしてきました。