イスラム体制による独裁的な権威主義国家として知られるイラン。ハマス・イスラエルの衝突を機に緊張の度合いを増す中東情勢を占う上でも重要なプレーヤーだ。にもかかわらず、その実態に関する報道は、日本では極めて少ない。いったいどのような国で、人々はどように生活しているのか。長年、留学や仕事で現地に滞在し、一般社会で暮らしてきた若宮總氏が伝える本当の姿とは?
(*)本稿は『イランの地下世界』(若宮總著、角川新書)の一部を抜粋・再編集したものです。
>>【前編】から読む
◎イラン人が「親日」になった理由 なぜアメリカでもイギリスでも中国でもなく、日本人を意識するのか
タブーとされる豚肉をどこで食べるか
「イランって、酒も飲めないし、豚肉も食えないんだろう? 女の子とデートもできないって言うじゃないか。お前、よくそんな国で生きていけるな」
ときどき日本に帰って来て、私が「イランで暮らしている」と話すと、日本人の友人たちは決まってそう言う。そのとき彼らが浮かべる、感心とも軽蔑ともつかぬ表情にも、こちらはすっかり慣れっこだ。
「まあ本当にその通りだったら、とっくに正気を失っていただろうね。でも、いま君が言ったもの、イランでもまったく不自由してないから、ご心配なく!」
そうなのだ。あれもダメ、これもダメと言いながら、実はそのすべてにちゃんと抜け道が用意されている国、それがイランだ。
たとえば、イスラムで「ハラーム」(タブー)とされる豚肉を食べたいと思っても、たしかに普通のスーパーやレストランには置いていない。イスラム体制下では、ハラーム品の流通や販売が法律で厳しく禁じられているからだ。
ところが、ある場所へ行けば、いとも簡単に豚肉にありつくことができる。それは、宗教的マイノリティーが経営している店だ。彼らはムスリムと違って、豚をタブー視しない。
私は一時期、無性に豚肉が恋しくて、アルメニア正教徒やゾロアスター教徒が営むファストフード店に通っていたことがある。どちらの店も、密輸入された豚のベーコンで作ったハンバーガーやサンドイッチを出していたからだ。