物語を朗読する国語科教員の大谷杏子さんと中学3年生のクラス

教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、男子校で広がり始めた性教育とジェンダー教育の現場に迫る連載「ルポ・男子校の性教育」。第6回は駒場東邦中学校・高等学校を訪ねた。今回は「性教育」の特別授業ではなく、普段の国語の授業。えげつない描写も含まれる小説を題材に、中3男子のジェンダーバイアスに揺さぶりをかける。

駒場東邦中学校・高等学校(以下、駒東)は、2023年には東大に72人の合格者を出すなど、東大合格者ランキングトップ10の常連。過去には昭和女子大の学生たちとジェンダーについて学ぶ機会を設けていたり、外部講師による性教育講義を定期的に行っていたりと、男子校の“アキレス腱”を補う教育に力を入れてきた。その姿勢は普段の授業にも染み込んでいる。中3の現代文の授業を見学した。

おおたとしまさ:教育ジャーナリスト)

「たとえばアダルトコンテンツを見てる男の子でも、好きな女の子にはそういうことしてほしくないという感覚があるはず。この作品を通して、異性に対する矛盾した欲求にも焦点を当てていくことになります」と大谷杏子教諭。

 取り組むのは、直木賞作家・東山彰良の短編集『どの口が愛を語るんだ』(講談社)から「猿を焼く」。授業見学の予習として、私も読み、衝撃を受けた。これを教材に選んだ大谷さんの本気を感じた。

 念のため断っておきたい。中学受験でわが子が駒東を目指しているからといって、この小説を小学生にいきなり手渡すのはやめてほしい。えげつない性的描写も含まれているので、必ず保護者が読んでから判断してほしい。 

教材として使用されている『どの口が愛を語るんだ』(東山彰良、講談社)(写真:筆者撮影)

 残酷なほどの地方格差、教育格差、性別格差を生きるむき出しの人間群像を描く。いや、この作品で描かれているのは「格差」なんて言葉で表現できる生やさしいものじゃない。その根底にある究極的にエグい人間社会の蠢きが、マグマのような憎悪をもって表現される。

 どれだけ残酷でエグくて憎悪に満ちた作品なのか。タイトルの「猿を焼く」から、鎖につながれたままなぶり殺されたニホンザルが弱々しい炎に焦げていく様子を想像してみてほしい。それが作品全体の“におい”だ。

 主人公の「ぼく(平山圭一)」は、それぞれの格差の“恵まれた”側から、あるいは物語に描かれるクソみたいな社会やクズみたいな人間どもに憎悪を感じる側から、眺める。駒東の生徒の多くも最初は主人公と似た立場にいるかもしれない。しかし、内外反転が起こる。