教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、男子校で広がり始めた性教育とジェンダー教育の現場に迫る連載「ルポ・男子校の性教育」。第3回も前回に引き続き、神戸市にある私立灘中学校・灘高等学校を訪ねた。今回の授業は「セクシュアリティ」がテーマだ。
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兵庫県の私立・灘中高は日本屈指の進学校として知られるが、実は週5日制。ただし、6月と10月には教科横断型の選択講座「土曜講座」が開かれる。外部講師が招かれることも多い。その1つとして「セクシュアリティ」をテーマにした授業を見学した。
(おおたとしまさ:教育ジャーナリスト)
トランスジェンダー女性が捨て身の自己紹介
教室には15人ほどの生徒が集まった。担当教員が軽く授業の趣旨を説明すると、外部講師はなぜか無言で、ジェスチャーだけで授業を始める。無言だが、目はニコニコ笑っている。スクリーンには「みなさん、おはようございます。突然ですが、私の性別っていったいなんだと思われますか?」の文字。
髪型にしても服装にしても、見た目では判断ができない。20秒経過を知らせるタイマーが鳴ると、講師がついに口を開く。「どうも、はじめまして、京都から来た土肥いつきと申します」。声は男性っぽい。「……ぜんぜんリアクションないですね」。そこでようやく生徒たちから笑いが起こる。
「見た目と声のギャップでだいたい笑ってくれるんですけど、全然ダメですね。いまいち悔しかったんで、トランス定番の『あれ』から」。スクリーンには1997年当時の土肥さんの写真が映し出される。口ひげを生やし、ちょっとこわもてだ。「おー」と低いどよめきが起こるが、灘生たちはまたしても落ち着いている。
「いや、これ、捨て身のギャグなんやけど……。昔、パーマあてて、ヒゲ生やしてたんですよ。眼鏡してましてね。一応これ、『ジョン・レノン』タイプなんですけど、みんなからは南こうせつって言われてました。知らんか……」
京都府立の高校に勤務して39年。数学の教員をしている。セクシャルマイノリティ教職員ネットワーク副代表であり、関西大学人権問題研究室非常勤研究員でもある。2021年には人間科学の博士号を取得。トランスジェンダーの女性である。自身の半生をふりかえるところから授業は始まる。