(田中 美蘭:韓国ライター)
「コロナ禍」の中での開催という面で注目を集めた東京五輪。だが、コロナ禍だけでなく、競技における「性的マイノリティー(LGBTQ)」という面でも社会に一石を投じた。トランスジェンダーとして出場を果たしたニュージーランドの選手を巡る論争である。
今大会では、LGBTQを公言して出場する選手は142人とされ、これまでで過去最多と報じられていた。その中でも、特に注目されていたのは、女子重量挙げにニュージーランド代表として出場したローレル・ハバード選手であろう。
現在43歳のハバード選手は、ニュージランドで長く重量挙げの選手として長く活躍してきたが、元は男性だった。30代の時に心の体の性が一致しない「性同一性障害」の診断を受け、2013年に性転換のためのホルモン療法を実施、名前も替えた。そして、今回、女性としてオリンピックの出場が認められたのである。
当然のことながら、ハバード選手の出場に関しては開催前より賛否両論、あえていえば否定的な声が多く上がっていた。特に聞かれたのが、「性別を変更したからといって、生まれついての体格や身体的能力は本来の性別によるところが大きい。記録などの「公平性」が保たれるのか」「明確な規制が必要だ」「こうした世の中の意見を『差別』ではなく『区別』と受け止めることも必要」といったものである。
残念ながら、ハバード選手自身は本番の舞台ではその実力を発揮することなく、スナッチで3回の失敗を犯し、「記録なし」で予選を敗退した。自身の問題で話題を集めたことによるプレッシャーや重圧が大きかったのだろう。
もっとも、競技後のインタビューを見ると、その表情と言葉からは清々しさを感じさせた。今大会で競技生活を終え、現役から退くことを示唆しているハバード選手は、今回の自身のオリンピック出場についての胸の内を次のように明かした。
「(自分のオリンピック出場が)歴史的な出来事として扱われるべきではない」