タイとの国境を流れるモエイ川沿い、ミャンマーのカレン州ミャワディにある「詐欺団地」KKパーク(写真:REX/アフロ)

中国人俳優の失踪事件でにわかに脚光

 きっかけは、中国の俳優・王星(ワン・シン)の失踪劇だった。31歳の王星は、中国でトップスターというわけではないが、多くのテレビドラマやネットドラマに出演しており、ドラマ好きの中国人なら、顔を見たら「ああ、あの人ね」と分かる程度には有名人だ。

 そんな王星は、タイの映画出演の話が来て、今年1月3日未明に、上海からバンコクに向けて発った。ところが同日昼前に、ミャンマーとの国境付近から連絡が来て以降、音信不通となった。

 王星には、嘉嘉(ジアジア)という同棲中の女優がいて、1月5日に嘉嘉が、「王星はタイで誘拐されたに違いない、助けてほしい!」と、中国国内で呼びかけた。同時に上海警察を通じて、タイとミャンマーの中国大使館に調査を要請、自らも王星の弟と共にバンコクへ向かった。

 王星にとって不幸中の幸いだったのは、1月29日に春節(旧正月)を控えていたことだった。今年の春節期間中、タイは中国人観光客にとって、日本と並ぶ「最大の訪問予定先」となっていた。そのためタイ政府が、事件が長期化すれば大量の中国人観光客がキャンセルすると懸念して、捜査に本腰を上げたのだ。

 1月6日の晩に、タイのテレビ局が「王星はミャンマーにいて無事」と報道。拷問を受けたと思われ、げっそり痩せた剃髪(ていはつ)写真が公開され、中国国内は騒然となった。その後、王星の身柄がタイ側に引き渡され、1月11日に無事上海に戻ってきた。2月14日には、タイ警察が、中国籍の犯人グループ10人を強制送還し、中国側に引き渡したと発表した。