本当の「性の悦び」とは(写真:Pixel-Shot/Shutterstock)

1993年に『男性解体新書』(大修館書店)、2014年には『男子の性教育』(大修館書店)を著し、近年では『おうち性教育はじめます』『恋愛で一番大切な“性”のはなし』(KADOKAWA)、『50歳からの性教育』(河出新書)などが話題になっている、性教育の第一人者・村瀬幸浩さんに、男子校の開成や麻布で行った性教育講座の内容について聞いた。

(おおたとしまさ:教育ジャーナリスト)

■元一橋大学・津田塾大学講師、村瀬幸浩さんに聞く(前編)
性教育の第一人者は開成中学で「オナニー」について何を語った?性的欲求への4つの対応と「ケア」の精神

村瀬:親の生き方、性についての考え方、夫婦関係のあり方は、良くも悪くも身近な大人のモデルという意味で、学校での性教育よりも影響力があります。子どもたちの異性観やセックス観に大きな影響を与えます。

おおた:両親が性的にも幸せであるという雰囲気が、当たり前のこととして家庭にあるというのは、子どもが性に対するポジティブなイメージをもつうえでとても大事なことだと思います。

村瀬:そう。日本の子どもたちには、豊かな性生活を送る大人たちのモデルがいないんです。そういう中で、いいパートナーシップなんて言われてもわからないですよね。

村瀬 幸浩(むらせ・ゆきひろ) 元一橋大学・津田塾大学講師 “人間と性”教育研究協議会会員、日本思春期学会名誉会員。私立・和光高校の保健体育教師として25年間勤務。その後25年間、一橋大学と津田塾で「セクソロジー」の講義を担当した。

 性教育というと、小さな子どもの親御さんたちは、子どもに何をいつまでに教えたらいいかということばかり気にしますが、子どもに質問されたら一所懸命話し合えばいい。それが思春期にもなれば、親から性についてあれこれ言われたくなくなります。おうちでは、日常生活でのやりとり、笑顔、しぐさの中で子どもたちを育ててくださいと説明します。学校が「教」で、家庭は「育」だと。

おおた:性教育が大事だってことになると、張り切りすぎちゃう意識の高い親御さんはいそうですね。

村瀬:性教育の本を子どもといっしょに読めばいい。「あ、私もよく知らなかったわ」なんて言いながら。親が教えようなんて、無理です。

おおた:「性愛はそんなに簡単にマスターできるものではない」という謙虚な姿勢を大人が見せることで、子どももそこに畏敬の念みたいなものを感じてくれるのだと思います。決しておちゃらけたり、消費したりするものではなくて、一生をかけてその深みを理解していくものなんだと。

 そうすれば、焦って軽率な性行動をとるようなことも減らせると思います。大人の性に対する理解が浅いままだと、それが伝わりません。

村瀬:その通りです。