教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、男子校で広がり始めた性教育とジェンダー教育の現場に迫る連載「ルポ・男子校の性教育」。第1回は、東京都豊島区にある私立巣鴨中学校・高等学校を訪ねた。
巣鴨は1910年に文学博士遠藤隆吉が「硬教育」を標榜して創立した男子校で、医学部進学に強い中高一貫校として中学受験でも人気だ。イギリスの超名門イートン校のサマースクールへの参加が許されている、都内で唯一の男子校でもある。武道の寒稽古をしたり、深夜に大菩薩峠を越える強歩を行ったり、ふんどし姿で遠泳をする合宿があったりと、古風な男子校の印象が強い。だが、家庭科の授業では人気ドラマ「逃げ恥」を教材にするというユニークな方法で、男女共同参画や妊娠・出産について学んでいる。出産の現実や社会にはびこるジェンダーバイアスを、男子高校生はどう受け止めたか。
(おおたとしまさ:教育ジャーナリスト)
日焼けしたスポーツマン教員が家庭科を担当
1学期の期末試験が終わった翌日、化学講義室にばらばらと高校1年生が集まってくる。講義室の前面にはスクリーンが垂れ下がり、プロジェクターが発する青い光を映し出していた。
ただし、授業を担当するのは理科ではなく家庭科の教員である黒木義郎さん。しかも、2021年1月2日にTBS系列で放映されたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類! 新春スペシャル!!」を観るという。
配られたレジュメのタイトルは、「『逃げ恥』で学ぶ家族家庭(男女共同参画・妊娠・出産等)」。2コマ連続で行われる家庭科の特別講座である。
「いまからドラマを観てもらいます。ずっと観ていると落ちるひとが出てくると思うので、20分ずつくらいで区切って、途中で解説を入れます。手元のレジュメには、ドラマの各場面に対応したキーワードと、その解説が書いてあります。僕は、体育も家庭科も両方の教員免許をもっていますので、それぞれの場面に対して、保健体育と家庭科の教科書の対応するページ数を書いておきました。あとで読んでください」
もともとは体育科の教員で陸上部の顧問だが、家庭科と技術科の免許も取得したスーパーティーチャーだ。日焼けしており、短パン&Tシャツという、いかにもスポーツマンな風貌で、家庭科を教える。それを「意外」と感じてしまう私には、まだ無意識のバイアスがあることを自覚させられる。
「自分にも、みんなと同じ高校1年生の子どもがいます。出産も経験しています。もちろん自分のお腹から産んだわけではありませんが、なぜ経験なんて言葉を使うのかはあとで説明します。ドラマは最後までは観ません。最後まで見たいひとはアマゾンプライムでお金払って観てください。授業の最後に小テストを行うから、ちゃんと観ていないと答えられないぞ。でも、メモをとるほどではありません。ちゃんと観ていれば答えられます」
小テストは、生徒たちがそれぞれ携行しているノートパソコンを使用して、オンラインで行われる。