イランで暗殺されたハマス最高指導者、ハニヤ氏の葬儀=8月1日(写真:AP/アフロ)
  • イスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏がイラン首都テヘランで殺害された。ハニヤ氏は7月30日に実施されたペゼシュキアン新大統領の就任宣誓式に出席するためにイランを訪れている最中だった。
  • 在イラン日本大使館で専門調査員も務めた慶応義塾大学の田中浩一郎教授は「イスラエルによる小型ミサイルか自爆ドローンを使った暗殺でパリ五輪開催中を狙ったと考えられる。暗殺者はイラン国内にいたのでは」と分析する。
  • 田中教授はまた、「(欧米との対話を追求する)新大統領ペゼシュキアンは身動きが取れなくなるだろう。また、イスラエルが“ハマス殲滅”を諦めるつもりはないことから、ガザの停戦も難しい」と話す。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

暗殺を実行したのはモサドか

──ハマスの最高指導者のハニヤ氏が暗殺されました。米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、「事前に仕掛けられた爆発物」によって殺害されたとのことですが、イランの新大統領就任のタイミングを狙ったのでしょうか。

慶応大・田中浩一郎教授(以下、敬称略):元々、イスラエルのヒットリストにはハニヤ氏が入っていましたから、暗殺を計画していたのは当然として、タイミングも狙っていたのだと思います。

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 ペゼシュキアンの就任宣誓式でハニヤ氏が確実にイランを訪れるタイミングで、イスラエルの対外諜報機関モサドが殺したと見るのが妥当でしょう。ハニヤ氏ともう1人しか殺害されていませんから、イラクなどイラン国外からのミサイル攻撃で殺したとは考えにくく、暗殺者はイラン国内にいて、ピンポイントで狙える小型ミサイルまたは自爆ドローンを使ったのではないでしょうか。

 また、暗殺のタイミングで注目すべきは、ペゼシュキアンの就任宣誓式というだけではありません。現在は国際社会の関心がパリオリンピックに向けられています。イスラエルはアメリカでスーパーボウルが行われていた2月上旬にガザ地区南部ラファへの地上作戦を強行しました。世界の関心が他の地域に向けられているときに、イスラエルはこうした行動に出るのです。

 イスラエルのネタニヤフ首相とイスラエル軍部はハマスだけでなく、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラ、そして最終的にはイラン政府の打倒を狙っています。やり口は、今回のようにイランを挑発し、反発を引き起こすことで戦闘のエスカレーションを狙い、アメリカやイギリスも巻き込もう、というものです。

田中 浩一郎(たなか・こういちろう)慶応義塾大学 大学院政策・メディア研究科 教授 中東研究者。1961年生まれ。東京外国語大学外国語学部ペルシア語学科卒業、東京外国語大学大学院外国語研究科アジア第2言語修了。在イラン日本国大使館専門調査員などを経て、1999年から2001年まで国際連合アフガニスタン特別ミッション政務官を務め、タリバン旧政権末期の和平交渉にあたった。その後、日本エネルギー経済研究所常務理事兼中東研究センター長などを経て、現在は慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。中東地域の国際関係やエネルギー安全保障について研究を行う。

 実際、イスラエルはハニヤ氏暗殺の少し前に、レバノンのベイルートで空爆を行い、ヒズボラの司令官を殺しています。

 イランは国土も広く軍事大国でもありますから、イランの核施設などを含め、イスラエル単独で攻撃することはできません。アメリカの協力が必ず必要になってきます。

──ハニヤ氏の暗殺により、イラン指導部はどのように反応すると予想しますか。