トランプの再登板でEUは対米関係のリバランスを模索している(写真:ロイター/アフロ) トランプの再登板でEUは対米関係のリバランスを模索している(写真:ロイター/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 英フィナンシャルタイムズ紙が7月29日付で伝えたところによると、欧州連合(EU)は11月の米大統領選を睨み、対米通商関係のリバランスに備えているようだ。

 理由はもちろん、トランプ前大統領の存在にある。共和党から出馬するトランプ前大統領が、貿易赤字削減のため、すべての輸入品に一律で10%の関税をかけると主張しているためだ。

 筆者はトランプ前政権が発足した2017年1月、ヨーロッパに出張して現地の有識者と議論を交わしていたが、その際にトランプ前大統領に対する不信感を異口同音に聞いたことを鮮明に覚えている。それだけEUにとって、トランプ前大統領の存在は異様だったようだ。特にスペインでは、トランプ前大統領に対する厳しい声が多く聞かれた。

 スペインはその歴史的な経緯から、中南米諸国に対して強いシンパシーを抱いている。その中南米からの不法移民に対して、トランプ前大統領は非常に厳しい態度を示した。そのためスペインでは、国民がトランプ前大統領に対して強い不信感を示したのである。

 そして実際に、トランプ前政権期においてEUと米国の関係は冷え込むことになった。

 2021年にバイデン民主党政権が誕生したことで、EUと米国の関係は雪解けが進み、正常化した。一方で、2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が生じるとともに、ロシアと中国の経済関係が深化したことから、EUと米国は中国に対して厳しい姿勢を強めるようになる。米欧中の三つ巴の関係は、米欧対中国という構図が強まったわけだ。

 しかしトランプ前大統領が返り咲くとなると、EUと米国の関係は再び緊張することが予想される。EUが肝煎りで進めてきた脱炭素化やウクライナに対する支援も、見直しが余儀なくされるだろう。言い換えれば、そうしたリバランスのコストをいかに軽減するかをEUの執行部は議論し、再登板となれば実行する必要に迫られているのである。