- 米国の対ロ制裁強化によって、ロシアとの取引を手控える中国の銀行が増えている。
- 中ロ貿易に関わる企業は中ロ国境の地方銀行に加えて、通貨ブローカーや暗号資産の活用を進めているが、中国とロシアの貿易は輸出入ともに縮小しつつある。
- 今後、専門の貿易決済機構が設立される可能性もあるが、そうなれば、ロシアは多角貿易体制から双務貿易(二国間貿易)体制へのシフトを余儀なくされる。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
米国のジョー・バイデン政権は昨年12月に対ロ制裁を強化した際、ロシアの軍需産業と取引をしている第三国の銀行を米国の金融市場から締め出す措置を強化した。この「二次制裁」の強化を受けて、それまでロシアと取引をしていた中国の銀行は続々と取り止めた。米国の金融市場から締め出されれば、銀行ビジネスが成り立たないためだ。
当初、この流れは中小銀行から生じたが、今年3月以降は中国の大手銀行もロシアとの取引の精査を強化したり、業務から完全に撤退したりするに至ったようだ。いわゆる四大銀行(中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行)もロシア事業の見直しを進め、うち建設銀行と農業銀行はロシア子会社の資産を縮小したという。
中国の銀行がロシアとの取引を手控えたことから、ロシアと中国の業者は、決済を継続するために他のルートの発掘に努めるようになった。各種報道に基づけば、その主なルートは今のところ以下の3つのようだ。
1つ目が、中ロ国境の地方銀行による決済ルートである。産業が発達している吉林省や黒龍江省の地方銀行がその担い手なのだろう。
またロシアと中国の間の決済を目的に新設された専門銀行も、両国間の貿易決済を担っているとされている。こうした銀行は、ロシア企業による口座の開設も容認しているようだ。
続く2つ目のルートは、中ロ国境で暗躍している通貨ブローカーを用いる決済ルートである。紙幣での決済もあれば、地下送金による決済もあるのだと推察される。
そして、3つ目のルートが、暗号資産を用いた決済ルートだ。中国では表向き、暗号資産の取引は禁止されているが、実態としては国外の取引所で取引したり、相対で取引したりされているようだ。一方で、ロシアでは暗号資産の取引は容認されているため、両国の貿易業者は暗号資産を用いて貿易決済を行っているとのことである。
こうした米国による二次制裁強化の影響は、貿易統計からも窺い知れる。