愛国ソング「This Land Is Your Land」が内包する矛盾

 マスク氏は先述の講演で「米国は人間の探究精神が凝縮された場所。人々は他の場所(国)からこの地にやってきた」と話している。自身はその探究精神を「移民として」満たし、アメリカンドリームを成し遂げたかもしれない。だがその恩恵は、マスク氏以外の移民にも受ける権利がある 。

 1940年代、米国では「This Land Is Your Land」というフォークソングが誕生した。歌詞の概要は、この国は「あなたと私のもの」というもので、つまり米国とは全ての人々が同様の権利を享受できる国だという米国の理念が含まれているとされ、愛国的な歌としても知られる。

 しかし、この曲には否定的な見方も存在する。そもそも米国は、その場に暮らしていた先住民族から「白人の移民が力づくで奪い取った」という歴史があり、この歌詞はその事実を消し去っているという批判も受けている*5

*5The Blind Spot In The Great American Protest Song(npr)

 米国で「リマイグレーション」を唱える権利があるとしたら、あえて言えば 従来から米国に暮らしていた先住民くらいだろう。トランプ氏やマスク氏に加担し同調する極右の米国人には、自身のルーツを今一度振り返ることをオススメしたい。また、欧州、そして日本においても、 この言葉の陰に潜む危険性について、今後もより広く報じられるべきだろう。

楠 佳那子(くすのき・かなこ)
フリー・テレビディレクター。東京出身、旧西ベルリン育ち。いまだに東西国境検問所「チェックポイント・チャーリー」での車両検査の記憶が残る。国際基督教大学在学中より米CNN東京支局でのインターンを経て、テレビ制作の現場に携わる。国際映像通信社・英WTN、米ABCニュース東京支局員、英国放送協会・BBC東京支局プロデューサーなどを経て、英シェフィールド大学・大学院新聞ジャーナリズム学科修了後の2006年からテレビ東京・ロンドン支局ディレクター兼レポーターとして、主に「ワールドビジネスサテライト」の企画を欧州地域などで担当。2013年からフリーに。