10月27日に投票日に向け衆院選が熱を帯びている。「政治とカネ」だけではく、経済政策も大きな争点だ。止まらない物価上昇、低迷する実質賃金を前に国民はどういう審判を下すのか。衆院選後の日本に必要な経済政策はどのようなものか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)
(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)
極めて常識的だったアベノミクス
街中は選挙戦で騒がしい。目まぐるしい展開の中で、あれよあれよという間に衆議院総選挙となってしまった。経済政策についても様々な主張があるが、その底流には、「アベノミクス」の否定あるいは肯定という切り口が1つあるように思う。
アベノミクスとは何を目指したものだったか。そして、実際はどういう展開になったか。振り返るのに良い機会だ。
アベノミクスは、よく言われてきたように、3つの柱からなるマクロの経済政策の枠組みだった。
金融政策(第1の柱)と財政政策(第2の柱)によるサポートで、日本経済の構造を変える(第3の柱)というのが、おそらく正しい理解だったのだろう。これは極めて常識的な考え方だ。
しかし、3つの柱が別々に語られたり、金融緩和が最前面に出たりして、その基本的な骨格が次第にみえなくなってしまった。
バブル崩壊後、30年以上にわたって続く「何とも調子が悪い」という感覚の根底にあったのは、がらっと変わってしまった日本を取り巻く環境下で、経済がその構造を十分変えることができないところにあった。
第3の柱はそれを改善しようとするものであり、したがって一番大事なものでもあった。
しかし結局は、安易に第1の柱による金融緩和の偏重となり、「デフレ」でさえなくなれば日本経済は良くなるという話になってしまった。第2の柱の財政政策にしても、金融政策で限界まで緩和を進めても、そこから財政政策によって、政府と日本銀行の間で合意した2%のインフレ目標を実現しようという議論にはならなかった。
より正確には、そうしたことは財政事情が許さなかった。また、歳出の中味を見直し、例えば社会保障関係の国費の投入を抑え、経済構造変化の円滑化に注力するということもならなかった。