日本銀行は政策金利を引き上げている。一方、欧米のインフレは鎮静化の方向で、欧州中央銀行(ECB)は今年2度目の金利引き下げを実施し、米国の連邦準備制度理事会(FRB)も9月に金利を引き下げることが確実視されている。8月以降の株価乱高下などを背景に日本銀行の金融政策を批判する声も聞かれるが、そもそもなぜ今、日本の金利は上がっているのか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)
(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)
もう2年以上2%超のインフレが続いている
今年も暑い夏で、さらにまだ暑さは続いている。やっともうすぐ秋だが、かなり疲れてしまった。そこで、ここで肩の力を抜いて、なぜ今、日本の金利が引き上げのプロセスにあるのか、それこそ虚心坦懐に考えてみたい。
まず経済実態については、米国経済が本当にソフトランディングするのか不透明であり、欧州経済は必ずしも順調とは言えない。中国経済の先行きについても悲観的な見方が増えている。
そのため各国の株価も、いろいろな経済指標が出るたびに、悲観へ、楽観へとかなり振れる。そうしたグローバル経済は、日本が動かしているわけではないので、日本の株価はどうしても受け身で反応する。
かような状況にあるため、冒頭の日本銀行のスタンスに対しても否定的な議論が聞かれる。曰く、「株価下落の引き金になった」「なぜ今金利を引き上げなくてはならないのか」云々。
こうした議論においては、日本銀行の側も、それを批判する側も、従来の説明との整合性を気にせざるを得ない。しかし、個人的には、何とも水掛け論が展開されているようで、本質がすっと胸落ちしない。
日本銀行が政策金利を引き上げるプロセスに入ったのは、インフレになったからだ。
もう2年以上2%超のインフレが続いている。インフレ率は、今後は低下しそうだし、さらに言えば、このまま2%で安定するかどうかも分からない。
それでも、またデフレになるとまではみられていない。グローバル経済の変容で、プラスのインフレはそこそこ続きそうだ。そういう時に、さすがに政策金利がマイナスとかゼロということはないだろう。