日経平均株価が8月5日に過去最大の下落幅を記録したほか、為替相場では急激な円高ドル安が進むなど、金融市場が不安定になっている。そのやり玉に挙げられたのが日本銀行だ。7月末の金融政策決定会合で0.25%の利上げを決定するなど政策変更に動くが、市場の動揺を受け批判にもさらされている。果たして「主犯」は日銀なのか。元日銀の神津多可思・日本証券アナリスト協会専務理事が解説する。(JBpress編集部)
(神津 多可思:日本証券アナリスト協会専務理事)
米雇用統計をきっかけに株を売って、債券を買う動きに
8月の第1週、金融市場が大きく動いた。内外の様々な要因が絡み合ってのことなので、いくつかの要因に分解してその理由を考えた方が良さそうだ。
少し遠回りだが、内外の金融資産のポートフォリオを入れ替える際の考え方から入ろう。
まず、円建ての資産にするか、それとも外貨建てにするかという切り口がある。もう1つ、同じ通貨建ての資産でも、リスクの高い資産、例えば株式で運用するのか、あるいはリスクの低い資産、例えば国債あるいは預金で運用するのかという切り口がある。
このような2×2のシンプルなマトリクスで考えた場合でも、投資の意思決定においてはさまざまな先行きの展開を予想しなくてはならない。
これから経済に変調が起こりそうだと考えた場合には、リスク資産である株式への投資割合を減らし、より安全な国債などの比率を高めるよう、配分を見直す。米国で8月2日の金曜日に発表された雇用統計をみて、米国経済が後退局面に入りそうだとの見方が広がった。それをきっかけに株式を売り、債券を買う動きが起こった。
米国の景気が悪くなるなら、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は利下げに動く可能性が高まる。そうなると日米の金利差は縮まる。その結果、為替レートには円高の力が働く。
日銀の利上げに「時期尚早」との論調
この2つの動きが、つまり株安と円高が同時に起きたのが、週明けの8月5日月曜日の東京市場だった。円高は、海外事業を展開している企業の、連結決算上の海外ビジネスの評価を円建てでは圧縮する。それがさらに株安を生むという悪循環もあった。
金融市場がそうした展開になった背景説明として、その前の週、7月31日の日本銀行の政策金利の引き上げが時期尚早だったからだという論調がにわかに出てきた。
本当にそうなのであれば、利上げの日から株安が始まっても良さそうなものだが、実際には当日は、日経平均で前日比500円を超す株高で終わっている。